夜遅くのレッスンにて

  • 2012年くらいに書いた、音也視点と翔視点、それに那月の三人がでてくるなんてことはないお話です。懐かしかったので再掲

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 レッスン室はいつでも使えるようになっている。そう、何時まででも使えるように、シャイニング事務所の社長であるシャイニング早乙女がそうして調節してあるからだ。

 寮の近くに併設してあることもあって、帰りの時間を心配する必要もない。たまにテレビ局での収録が遅くなって、へとへとになってタクシーで帰ることもあるけど、このレッスン室からあがるんだったら、すぐに自分の部屋に戻れる。

 ……だからなのか、最近の翔はやたらと気合が入っている。声をかけなければいつまでも練習を続けてしまいそうなくらい。

「しょーう。そのへんにしておいたら? もう俺、シャワー先に浴びちゃったよ」

「マジかー。くそもっかいあのパート合わせておきたかったんだけど。もうこんな時間だもんな」

「あぁでも翔がやるなら俺も合わせるよ」

「いいって。せっかくシャワー浴びたんだろ? もう先帰ってもいいぜ」

「翔が踊ってるとこ見るの好きだから、ここで見てる」

「……ま、別にいいけど!」

 変なやつ! っていう顔をするときの翔を見るとなんかホッとする。真剣なわりに、くだらないことでも付き合ってくれるし、トキヤみたいに真面目、ではあるんだけれど、どこか違うっていうのかな。

 自分の思うとおりの動きができなくて、翔の足が疲れでもたれていくのがよくわかる。七人全員で踊るパートだけど、身軽な翔だからなのか、結構、俺よりも動きが激しいパートが多い。

 周りの皆は、最初から出来ていることが多いけど、俺と翔は結構、「こうかな?」「こうだろ?」とか言い合いながら、振り付けを確認していかないと、ばっちり合わないことが多くて、こうしてレッスン室に居残ることの方が多い。

「お疲れ様です!」

 もうこんな夜遅くだから誰もこないだろうとおもって、油断して変な格好で翔のレッスンを見てたんだけど、ドアが開いた瞬間のこの声ですぐに誰かわかって、ほっとした。

「那月じゃん。どうしたの? もうこんな時間だよ」

「音也くんも翔ちゃんも、まだここにいるってきいて」

「俺はもうすぐあがるけど。翔はまだ頑張るっていうから」

 ほら、と視線を翔の方にむけると、にこにこした様子で那月が翔を見る。

「僕、翔ちゃんが踊ってるところを見るの好きです」

「あ、俺も好き。だからさっきからここでこうやって見てたんだ。那月も、ここに座る? もう少しで一フレーズ終わるから」

 とはいっても、レッスン室の床に寝そべるように見てたから、こんなのトキヤが見たら怒られると思うんだけど、那月はそういうところは一切触れずにいいですね~、といって俺のとなりに体育座りで座ってくれた。

「あ、音也くんに差し入れです」

 ずっと手にしていた紙袋から、えーと、音也くんのはーと言いながら那月が取り出す。もしかして手作りの何か……? と一瞬警戒したけど、手渡されたのはお洒落なボトルに入った飲み物だった。

「アイスティーです。冷やしてきたので、すぐ飲めますよ」

「ありがとー!」

 やったー! ちょうど喉渇いてたんだよ、と飲料水切れをタイミングよく補充してくれる那月に大感謝しながら紅茶を飲む。普段あんまり自分から好んで紅茶を選んだりはしないけれど、那月が淹れてくれる紅茶は、本当に美味しく感じる。

「ここのターンが、ワンテンポ遅れちゃうみたいなんだよね」

 曲がとまって、固定したカメラで撮影していた自分の動きをチェックしている翔を見ながら、那月に言う。

「うん。こことっても難しいですもんね」

「でも那月のとこもすごくない?」

「あれは翔ちゃんが全力で走ってきてくれてるのがわかるから、僕のタイミングが合うんですよ」

「そうなの?」

「そうです。だから今悩んでるこのターンも、きっと綺麗に決まります」

 そんな風にして翔を見る那月の表情を見ていると、心の底から翔のことを信用しているって顔だった。その視線が頼もしくて、その先にいる翔を見ていたら、ずっと悩んでいたターンも綺麗に決まって、「っしゃあー!」と出来に納得したように翔が声をあげた。

「翔ちゃん、すごい!」

「え!? あっ?! 那月じゃねーか、お前こんな夜遅くにどうした!?」

「翔ちゃんと音也くんの応援しにきたんです!」

「はー。いつもだったらお前、寝てる時間じゃねえか?」

「うん。でも元々お仕事遅くなっちゃいましたし。翔ちゃんが頑張ってるのに一人で寝れないですよ」

「いやいや、寝ろって。なんだ?」

 呆れた声を出す翔へと那月が何かを手渡している。

「はい、これ。ずっと翔ちゃん食べたいっていってたやつ」

「うおおおー。お前これっ。覚えてたのか?」

「翔ちゃんが言ったことって、なんだか覚えちゃうんですよね」

 音也くんも、どーぞといって手渡されたのは、最近はもうあまりみない翔のお気に入りのお菓子だった。ここのところではなぜか売る場所が少なくて、翔がこれを食べている姿を見る機会が減っていたけれど、那月はそれを覚えていて、それを受け取ったときの翔の本当に嬉しそうな顔がすっごいいいなぁって思った。

「あ、でも俺、ジャージが汗まみれなんだよ。シャワー、ちょっと浴びてくるわ。那月も音也も先帰っていいぞー」

「そう? じゃあ俺、もうさすがに眠いし部屋、戻るよ……」

「僕はせっかくなので翔ちゃんのこと待ってますよ。あ、一緒にシャワー浴びようかな」

「あ・び・ね・え・よ! なんで一緒に浴びることになってんだっつうの!」

 いつものなのかよくわからない二人のやりとりに笑って、俺はじゃあ先に帰るね、と告げて部屋を出る。翔はじゃあなーといってシャワー室にむかって歩いていって、那月はこちらを見ながら最後まで手を振ってくれた。

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