ジャンヌの経験、立花に積ませなくていいんですか、と僕は根地さんに聞いた。
根地さんはいつもの飄々とした表情の隙間に少し思惑があるような不敵な笑みを浮かべてから、僕が言うことは最もだというように頷きながらも、立花希佐は今回は「ジャック」だとはっきり言った。
◇
根地さんが何を考えているのか、わかった試しがない。
立花を見た瞬間からこいつは明らかにジャンヌだろうと思ったし、クォーツに入るのであれば多少は僕の負担が減るのかな……、なんてそんなことを考えていた。
男子が女子を演じるユニヴェールの歌劇において、ジャンヌができるタイプの人間は貴重だ。ロードナイトはそういう人たちの集まりになってくるけれど、それでも人材不足にいつも苦しんでいる先輩や御法川を見ていると、僕や立花みたいな人間は珍しく映るのだろう。
三年生の先輩たちはトレゾールとしてもジャンヌとしても立ち回れる僕を潰さないようにと色々と配慮してくれた。そういう配慮を感じるからこそ、このユニヴェールにいる限り課せられた各公演に対する期待には応えなければいけないと思っていたし、そうやって自分の居場所をまた僕自身が守らなければ、ここにもまた居られなくなるのかと思うと怖かった。
「大丈夫ですか?」
立花の心配そうな表情を見ていると、なぜか自分の中にあるものを引きずり出されるような感覚になって、ぼろぼろと愚痴がでてくる。
三年生の先輩たちは気遣ってくれたけれど、それ以上のことで負担をかけるということはできなかったし、二年生の同期とは、僕くらいしか配役で名前を呼ばれなくなってからは距離を置くことが増えていた。
一年生が入ってきたら、白田くんがちゃーんと稽古つけてあげてねと根地さんに言われて「え? やだけど」と普通に思っていたのに、いざ入ってきた立花をはじめとした新一年生は、関わりたくないものというよりも、いつの間にか関わってしまうもの、みたいな存在になってきていた。

たかさか
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