公演の最後にある打ち上げはいつにもまして騒がしい。張り詰めていた緊張の糸がピン、と切れるように、とはよくいうけれど、私たちクォーツの打ち上げはどちらかというと、張り詰めていた糸から指を離したからその反動が返ってきているような感じ、のほうな気がする。
この騒がしい打ち上げにも白田先輩は顔を曇らせながらも参加していたけれど、必ず中盤になってくると外へ抜けていくのが気になっていた。
最初はやはりうるさいからだろうな、と思って抜ける姿に違和感を覚えることなく受け流していた部分もあった。
それでも、誰にも声をかけずに、すっと消えていくその姿は、この空気をあえて壊さないようにと思っているようにも見えるし、……、本当にどこか遠くへ行ってしまうのではないかと思うような寂しさがなぜかあった。
「あれ。立花、お前も抜けてきたのか?」
気づかなかった、というように白田先輩はこちらを見た。
少し夜風にあたりたくて、と出てきた理由を告げると、ならこっちにくるか? と白田先輩が自分の隣を促す。
本当に一人になりたくて誰にも声をかけずに抜けてきていると思ったから、ついてくるべきではなかったかもと思っていたのに、こっちにこいと誘われてその反応の意外性に驚き、たじろぎながらも遠慮がちにその隣に居座らせてもらう。
「ここ、いいんだよ。すごく静かだろ。それに、風が気持ちいい」
目線はどこを見ているのだろう。星空を見ているのであればこの空に瞬く星だろうか。
いつもであれば美しいと思う空も、隣にいる白田先輩が見つめていると星よりもどうしても、白田先輩を見つめてしまう、自分がいる。
出会ったときに視線について注意されていたのに、と思って、はっと目をそらす。
「……いいよ、もう気にしなくて」
白田先輩は私の方を見ていなかったけれど、私がずっと見つめていたことに気づいていた。気づいていないはずなんか、なかった。
すみません、と謝ると白田先輩はうんざりしたような声で「だから気にしなくていいって言っただろ?」と念を押す。
「よくわかんないけどさ……お前に見てもらえてると思うと、なんか安心する」
「え……」
「誰かに見られていると僕じゃない僕を見られている気がしていたけど……、お前に見られてると……、なんだろうな。僕を、見てくれている気がする」
言ってる僕自身が意味わかんないけどさ……、と先程まで柵に身を預けるようにしていた白田先輩は姿勢を変えて、今度は背中に柵を預けてから私の方を見た。
「うん。立花見てると、安心するよ」
「……、私も、白田先輩に見てもらえてると、安心、するんです」
「そうなの?」
「最初は自分の不甲斐なさで怒らせてしまっている……とか、そういうのばかり感じてたんですけど……でも、白田先輩はきちんと私たちのことを見ていて、見ていないとわからないことばかりを教えてくれるじゃないですか。ちゃんと見てもらえてるって思えるから、歌の指導も、一緒に舞台で息をあわせるときも、安心して出来るんだなってそういう気がします……」
「ちゃんと見てなきゃ指導できないしな……、それに、僕は怒るけど。これからも、この先も」
最初だけじゃなくて今でもそうだ、というように白田先輩は厳しくいう。新人公演も、夏公演も終えて、その指導に慣れてきてはいたけれど、同時に指導時の厳しさも増してきた気がする。
こんな時に根地先輩とかだったら、「またまた勘弁してちょ!」なんて言葉で緊張をどうにかこうにかできるのかもしれないけれど、私は根地先輩ではないわけで……。
「お前さ」
「はい?」
「……、やっぱり怒られるのってイヤか?」
「えっ?」
「でもお前って厳しくすればするほどそれに応えるっていうか、負けん気が強いっていうかさ。打てば響くっていうか、どこまでやっていいのかわからなくなる時がある」
「私、ちゃんと求められてるところを目指せてますか?」
「ポテンシャルすごいよ……、だから時々こう……いや、なんでもない。気にしなくていい」
はぁ、とため息をついた白田先輩が気になって、「あの、」と声をかけた瞬間に「いたいた立花!!」とスズくんのひときわ大きい声が響いた。
少し距離が開いたところからスズくんはその声の大きさに任せて「三年生たちが呼んでたぞ!」と声をかけてくれた。
「あ、うん。わかった……!」
「先輩たちが呼んでるならもう行けば」
「はい……あ、白田先輩は?」
「僕はまだここにいる」
返事を聞いたときにはまた、白田先輩は私に背を向けて、星を眺めていた。

たかさか
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