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ジャックとしての配役をもらってからの立花の迷走は誰の目からみても明らかだ。自分の手足や動きをそれこそジャックエースであるカイさんと比べたり、ジャックとしてスター性がある織巻と比べているのは誰でもわかっただろう。
僕はユニヴェールに入ってからずっとジャンヌだったから、今、立花が直面しているような苦しみを経験したことがない。
何より根地さん自身が僕にジャックとして望むことがないというのが一つの答えなのだろうけれど、逆をいえば、立花がジャックとして求められたのは立花自身にまだ色んな可能性があると根地さんが考えているからなんだろう。
自分のことで手一杯で毎日悩んでるくせに、僕が「頭痛い……」と苛々していることに本当に心配そうな表情をする。
立花は心配をするだけじゃなくてちゃんと行動に移すタイプ、なのが僕にとって意外だった。
意外というよりも、僕にはできないことをしているという認識があったのかもしれない。
僕は頭の中でそうなのだろうといつも考えるだけで、それ以上手を伸ばさない。
余計なことはしたくない。それでもドタバタしてる一年たちを見てると、口を出さずにはいられないなんてことがたくさんあったけれど。
相変わらずの朝からの頭痛で、授業中も、授業が終わってからの稽古に入っても、苛々が抜けずにいた。
休みたいと思ったけれど、今のペースで練習を続けていると間に合わないかもしれない。
休んでる場合じゃない、と思うのと、休みたい……だる……と思う、すべてを投げ出したいなんていう気持ちと、それはだめだ、と思ってしまう心がせめぎ合う。
「美ツ騎。体調が悪いんだろう。今日一日くらい休んでもまだ間に合う、焦らなくていい」
ダンスの振付確認の前に、もう一度ストレッチをしようと身体を動かしたあたりでカイさんが僕の肩に手を置いた。
「カイさん……」
「立花からも聞いてる。朝からずっと調子が出ないんだろう? ……季節のこともあるかもしれないな、お前は去年もこの時期はこの調子だった」
「立花から……?」
あいつ、カイさんに何をいったんだ。カイさんはいつもこんな風に僕の体調を気遣ってセーブをかけてくれるけれど、その声かけの前に立花からも話を聞いてるって、そんな風に僕のことを見てくれてたってこと……?
自分のことで精一杯だろうに……、と立花本人を見る。
僕みたいに身体が小さくて、細くて、少年よりも少女みたいだ。クォーツのメンバーに取り囲まれてるとそれが余計に際立つ。きっと僕自身も周りから見たらそんな風に見えているのかもしれない。
だから余計にそんな立花のことが自分自身のようにも思えて目が離せない。
カイさんに心配かけてすみません、と伝えて今日はもう稽古をあがることに決めてから、立花に話しかけた。
立花は頭痛でくらくらする僕にむかって「肩を貸す」と言う。
そうした申し出ができること、入ってくるなと敷いていた仕切り線を軽々と乗り越えようとするその勇気をかっこよく感じて、その華奢な体でも持ってる意思の強さを褒めるつもりで色々と伝えたのに、立花は違うように僕の言葉を受け取ったようだった。
きっと今までの色んなことを思い出したんだろう、唇をちょっと噛んで悔しそうな顔で「私の肩だとうまく支えられない、かもしれないですけど……」と言った。
バカだな、と思って、こいつも一緒に連れ出そうと僕は決めた。最初は自分の稽古もあるんだからついてくるな、と思ったけれど、立花はいま、何を言われても自分に原因があると追い詰めるようになっているから、このままじゃきっとダメだ。
それにしても頭の痛みが増してくる。頭の中に入っているだろう脳が膨らんで、それをぎゅっぎゅっと押し込められているような……、とにかく、「頭が痛い」ということに気持ちが集中してしまって、だめだ。
歩くのも一苦労だし、立花が「ベンチがある」なんて教えてくれても、そんなものはすぐに見つからない。
ふらふらしていると、こっちです、と立花に手を取られたその瞬間に温もりを感じた。
滑らかな絹のような手触りに、僕よりも温かいからこそ感じる立花の体温は、どこか心地よかった。
小さな手してるんだな、と思った。
僕と身長はそんなに変わらないけれど、僕の方がきっと手は大きいのかもしれないなとか、そんな事を考えているうちに立花は、ぱっと手を離す。
悲しそうな顔で僕を見る立花は、何かと葛藤しているようにも見えた。今回のジャック役で壁を感じて苦しんでいるのはもちろんわかっている。でもそれとはまた違う、……、僕を見ていた時のあの悲しい顔は、僕が今まで見てきた立花とは違う、ただの……立花希佐を連想させた。
お前も座れば、と隣に促すと自然と距離を空けて座る。
誰であろうと隣に座ってなんかほしくないって普段は思うのに、立花には座ってほしいなんて願って、あまつさえ、距離はあけないで欲しいと僕は今考えている。
頭痛のせいか? ……季節、のせいか? 今、僕の隣りにいるのが、立花、だからなのか。
だめだ、考えようとすればするほど本当に頭が痛い。頭が重くて、首も肩も、何かがのしかかってくるように感じる。
横目で立花を見る。もうこれ以上、自分一人だけでこの頭痛を抱え込むの限界だ。立花だったら……という甘えが生まれて「肩、貸して」と、その肩を借りた。

たかさか
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