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一気にあっついシャワーを浴びる。浴びながら、そういや那月が待ってるんだったと思い出して、なるべく早めにあがろうと切り上げる。
音也なんてたまに一瞬で出てくるのを、トキヤはあれこそがカラスの行水ですからねと言ってたけど、さすがにまあ、身体の隅々までしっかり洗ってから俺はシャワーを終えた。
ロッカーにいれてあった着替えに袖を通して、今日使ったジャージは別にまとめて、シャワー室から出て、レッスン室を覗くと、ぼうっとした様子で那月が待っていた。
「那月、待ったか? お前……眠かったんじゃねえか?」
「そんなことないですよ。翔ちゃん、お風呂あがりにどうぞ」
「あ、おお。お前本当に気が利くつーかなんつーか」
手渡された水筒を飲む。ピヨちゃん柄のファンシーさがまさに那月って感じがする。
「髪の毛、まだ乾いてないね?」
「しっかり乾かしてると待たせちまうからなぁ」
「えー。そんなの気にしなくていいのに。ちゃんと乾かさないと、風邪引いちゃいますよ」
いつもとちょっと立場が逆転したかのようにたしなめられて、那月はちょっとドライヤーとってきますねーと、洗面所の方にいってしまった。それからそそくさと帰ってきて、はい、じゃあ目の前に座ってくださいねーと言われ、「いやいや自分で出来るから!」と断るものの、いいんです、今日は疲れてるだろうから任せてください! と謎の使命感に目覚めた那月に、なすがままになるしかなかった。
「翔ちゃんの髪、細くてきれいですねぇ」
「お前のだって、そんな変わりねぇだろ。ふわふわしててさぁ」
「僕は翔ちゃんの髪、かわいいなって思いますよ」
指を櫛のように使って、髪を梳かしながら、毛先まで綺麗に伸ばしつつドライヤーをかけてくれる。誰かに髪の毛を乾かしてもらうなんてそんな経験、ここんとこあったか? ないかもしんない。
那月の大きな手が、髪を優しく撫ぜる。ドライヤー自体の熱もあるけど、那月の手自体があったかいんだろうなぁって思うと、段々疲れが出てきて、あくびを連発してしまう。
「翔ちゃん、眠い?」
「眠くなんか……ねえよ?」
「でもさっきからこっくりこっくりしてる」
「いやいや、そんなことねえから」
言葉はしっかり否定しているつもりでも、自分自身、限界を感じてはいた。あれだけ動いて、なんかこんな風に撫でられてたら、そりゃ、眠くなるってもんだ。
「うん、綺麗に乾きました。ピン留めがなくても、翔ちゃんは可愛いですね」
「かわいいって、いうな……!」
那月のかわいいっていう、いつもの声が聞こえてきて、まどろみの中で反射で応える。那月はちょっとまっててね、と声をかけてから動き出していって、俺は眠くて仕方がなくて、壁によりかかりながら、段々記憶を失くしていく。
「あぁ、翔ちゃん、本当に寝ちゃったかな」
那月の声が、近いようで遠くに聞こえて、身体が急にふわっと浮いたのがわかった。眼の前に広がるミルクティーのような色をした髪。那月のくるくるっとした毛先が鼻にかかる。あぁ、俺、……背負われてんのかな?
「首にしっかりつかまっててね」
軽々と持ち上げられたのがなんかわかって、くそー、なんて思いながら、それでも那月の背が今日はなんだかすごい心地がいい。どんだけ疲れてても、寝ちまっても、那月の背に揺られていたら、必ずちゃんと戻りたい場所に、二人で帰れる、そんな気がするから。
「こうしてみんなで一緒の歌をうたって。翔ちゃんが頑張ってるかっこいい姿が見れて。こうして二人で素敵な星空を見れて、僕、すごく幸せですよ」
「おう……」
無意識に返事しながら、那月の優しい声に耳を委ねる。あー、かっこ悪いかもしれないと思う普段の自分と、それに抗えない睡魔と、なぜか押し寄せる安心感の中で、自分の意識が優しく閉じていくのが、よくわかった。

たかさか
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