「お前はどっちかっていうと犬っぽいよな」
白田先輩が静かに読書を続ける中で、私は何かしらの自主練をしなくては……と台本を読み込もうかなと思っていたところで、急にこんなことを言われて「えっ」と声をあげてしまった。
「猫より犬だなって」
そんな事を言う白田先輩の目線は私の方には向いていない。たどってみると、窓……、のむこう、に小さな影が写っていて、白い猫がこちらを伺うようにこちらを見ていた。
「白田先輩は、猫が好き……なんですよね」
「好きっていうか。この距離感がいいなって思うだけ」
確かに、猫と白田先輩の距離感を見ていると、ほどよい距離感というのがあるのだろうなというのがわかる。
でも私が見る白田先輩の目線はどこか憧れを持っていて……、このままの距離を取り続けたいわけじゃないんじゃないのかなって、そんなことを感じてしまう。
「別に、触れなくてもいいんだよ」
そんな私の視線を感じてか、白田先輩は誰に説明するわけでもなく、つぶやいた。
「触りたくなって、手を伸ばして……どこかに行かれるくらいなら……」
紙をめくる音がして、もう猫のことは見ないで本を見て話してるんだってわかる。
もう一度窓辺を見ると、見つめていたはずの猫の姿はもう消えていた。
「それにほら、何もしなくたってどっかいっちゃうんだし」
私がもういない、っていう表情をしていたのがわかったのか、それだけで白田先輩は今何が起きているのかを理解して会話をしている。
そういえば白田先輩は私のことを犬っていってたけど、それはどういう意味なんだろう。
「猫とか犬とか。そうじゃないな……お前は、お前だよ」
また、ぺらりと紙を擦る音がした。それから、パタンと音を立てて本を閉じると、「集中できなくなった」と言い残して白田先輩はふらりと外へと出ていく。
「外暑いと思いますよっ」
エアコンが効いていた室内と外気との温度差で、いきなり外で出てしまったら疲れちゃうんじゃないかと心配になって後を追いかける。白田先輩は窓辺近くの方まで歩いてたようで、木陰を見つけてそこにポツンと立っていた。
「猫……いましたか?」
「ううん。見つからないな」
「またいつか会えますよ」
「前はまたいつか、でもいいと思ってたし。会えなくても別に……って思ってたのに。そういうのが何か嫌になってきちゃったんだよな」
「え?」
「なんでもない。日差し強くなってきた。お前も、そろそろ戻れ」
「はい」
やっぱり暑いのは苦手だ、と白田先輩はそう言い残すと寮の自分の部屋に戻るためなのかそちらへむかって歩いていった。
あらためて白田先輩の話を聞いて、たしかに今は会おうと思えば会えるけれど……、そのうちそれも当たり前じゃなくなるのだろうと、そう、感じた。
三年生の卒業を意識した会話を最近聞いたばかりで、白田先輩自身もそれを色濃く意識しはじめてるのだろう。
いつまでも変わらない、いつまでもこのままで、最高なメンバーと一緒にいたい。
それが叶わないことは気まぐれな猫の暮らしを観察しなくてもわかることなのに、あらためてそうなんだって、思い知った一日だった。

たかさか
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