自然とお互いの空いてる時間を共有し合っては、じゃあその日に会おうと短い時間であっても顔を合わせていた。
早乙女学園に入ってからずっと寮生活を続けていたけれど、シャイニング事務所に入所してからも同じように寮生活を続けてきて、ある意味では学園生活の延長線上といったように会える機会が多くあるというのは特異なことであって、ありがたいことだなと彼とのお付き合いが始まってから強くそう思う。
もしかしたらこれから先、この事務所寮を離れるようなこともあるかもしれない。
けれど今はこうした環境に甘えさせてもらいながら、二人で一緒の時間を穏やかに過ごす日々が続く中で、どの日の出来事も忘れられないことばかりが増えていく。
「春歌の部屋、どんどん狭くなってない?」
この日も仕事を終えてから夜に時間を作って部屋まで遊びにきてくれた音也くん。
先にソファへどうぞといつものようにリビングに案内して、ソファに腰かけてもらう。
その間に二人分のマグカップに、温かい飲み物を準備してからリビングのソファに腰かけて自分のことを待っているだろう音也くんの元へと向かう。
キッチンで準備をしている時にそんな風に声をかけられたものだから(部屋が狭く……?)と疑問を覚えつつ音也くんの元へと向かうと、なぜか音也くんは自分の膝の上に、ぬいぐるみを三体乗せていた。
「音也くん、どうしてそのコたちを?」
「ん? ソファに座ってたから。俺が座るからごめんね~って思ったけど、どこに置こうか悩んでとりあえずここに」
とんとん、と音也くんは自分の膝を叩いてぬいぐるみたちを抱っこしている。
……ここでようやく、音也くんが部屋が狭くなっているという指摘をした理由がわかった。
そうかもしれない。
最近、物を置く場所が段々なくなってきて……クローゼットにある程度片付けてはいるけれど……それでもこのコたちを置く場所が見当たらなくて、最近はソファに座ってもらっていたのでした。
「ていうか、このコたち、みんな同じ?」
「えっ」
「あ、いや違う。このコとこのコは色が若干違う。そんでこのコはヘアピンつけてて」
「音也くん!」
「え?」
「すごいっ。どうしてわかったんですか? そうなんです、このコとこのコは同じに見えるけれど違う時期に作られたものでしてこのコはアレンジタイプの……」
「待って、なになになに春歌、すげぇ早口っ!」
「はっ……失礼しました」
気がつけば音也くん相手にマシンガントーク。
ついつい好きなもののことを話題にしてよいのかなと思ったら興奮してしまって何もかもが止まらない。
音也くんはわたしの話を楽しそうに聞いてくれるものだから、それでも興味がなさそうな話題にはふーんと一瞬スルーするけれど、あとで急に興味を持ってくれると「それってこう?」「こういうこと?」とたくさん質問をしてくれる。
自分の好きなものに興味を持ってもらえたのかなと嬉しくなってしまって、聞かれていないことすらも一方的に喋りたくなってしまう。悪いクセだなとわかってはいるのだけれど、これが中々治らない。
「春歌、このぬいぐるみ好きだよね」
「うん、好きです」
子供の頃から馴染みのあるぬいぐるみたち。最近になってまた新しいシリーズがでてきたりするものだから、懐かしさと、今なら好きなものに自由にお金をかけられるのだと思うと、つい買い集めてしまう。
「音也くんの部屋にもギター、最近増えてましたよね。象さんの形のものがたくさん」
音也くんはアコースティックのギターは昔からのものを大切に使っていて、エレキギターはライブのたびに本数が増えていっている気がしていた。
そして、最近ではなぜか可愛らしい象さんの形をしたギターが3本、部屋に増えているのが気になった。
同じものをなぜそんなに……と思っていたのでつい聞いてみる。
「おなじっ? 違うんだよ春歌! まず色が違うしっ~、それで最近買ったやつは他のと違ってディストーションのオンオフスイッチがついてたりしてさ」
ギターを買ったばかりの音也くんは、ギターのお話をたくさんしてくれる。
新品のギターを買ってるのかなと思ったら年季の入ったギターだってことを教えてくれたりもして、やっぱり聞いてみないとわからないことが多いのだなとふむふむと感心してしまう。
「最近ラジオで一緒になったバンドの人が収録の時に使ってて、いいなーって思ったから俺も欲しくなっちゃって……!」
「わかります。人のを見ると欲しくなっちゃうんですよね」
とってもよくわかると音也くんの話に頷いていると、音也くんは俺の部屋もどんどん狭くなってるから気をつけなきゃーって思ったら春歌の部屋のソファにこいつらが座ってて心配になったわけです、とぬいぐるみ同士を小突きあいさせながら教えてくれた。
「あ、音也くん、その子達は争うタイプではないので」
「え、そう? でも春歌のこと大好きだからきっと春歌の一番は誰かで揉めてるよ、こいつら」
「えっ?」
突然音也くんが作り出したストーリーを聞かされはじめて、どういうことでしょう、となる。
「俺が春歌の一番だ! いや俺だね。 すまないが俺が一番だ……」
音也くんは膝に乗せてるぬいぐるみを動かしながら、一体一体に感情を込めて声を吹き込んでいる。
……元々喋るようなぬいぐるみたちでもないので、その姿はとてもシュールなのだけれど、普段そんなことをしてる音也くんの姿を見れるのは貴重すぎてついこんなことを口にしてしまう。
「音也くん、ぬいぐるみで遊んだりするんですね」
「しないよ? ぬいぐるみは好きだけど遊んだりしたことない」
「でもすごく自然だったよ」
「これはただそうやって春歌のことを取り合いしてるぬいぐるみのことを考えてたら面白くなっちゃっただけで……」
普段からしてるわけないよ、と音也くんはしたことないけど? となぜか冷静に否定を続けている。
冷静に否定しつつも、音也くんはまたしてもぬいぐるみをお膝に乗せてお腹をなぜかぽんぽんと叩いてやりながら、なぜか幸せな表情で語り始めた。
「ぬいぐるみはいいね〜。俺、一人でいる時とか話してる時とか手でなんか遊んでないと落ち着かない時あるからさー」
言われてみて気づいたけれど、そういえば音也くんは落ち着きがない時がある。
仕事で台本の読み合わせにたまたま一緒になった時もはじまる前はずっとそわそわした様子で台本を開いたり、閉じたり、書き込んだりを繰り返していた。
付き合い始めた頃に、まだ二人きりでのデートにドキドキしていた時にはお互いに緊張しているのが伝わってきて、二人でご飯を食べにいって注文を終えた後のメニューを音也くんはずっと開いて閉じて読んでる時があった。
なんだかそわそわして落ち着かない時があるとそうなってしまうらしい。
そう考えると音也くんは今、落ち着けない状況にあるということでしょうか? とふと心配になって彼のことを見ると、なぜか二人の目がばっちりと合った。
「そうだ! 春歌に渡したいものがあって」
このタイミングで言うのもなんだけどさーと音也くんは自分で言った言葉に苦笑いをしてるようだった。
なんだろう? お仕事で必要なものかな、と渡されるものへ思い当たる節がないなと考え込んでいると音也くんはカバンの中から「じゃーん」という効果音を口にしながら手にしていたものを見せてくれた。
「! こここ、これは!」
大変なものが音也くんのカバンから出てきました。
これは、ずっと欲しかったけれどゲームセンターの景品で手にいれることが叶わず見送ってしまっていた最近出たばかりの、ぬいぐるみ……!
「このぬいぐるみのこと春歌、好きなんだろうなーってなんか覚えてたんだ。こないだゲーセンにいったら、こいつと目があって。連れて帰って欲しそうにしてたから、とってきた」
「そんな……すすすすすごい。ありがとう! 欲しかったんです、でも、どうしようって困ってて!」
このコも欲しかったけれど、ゲームセンター……は一人で行ったことはないし、行ったとしても取れる気がしなくて諦め気味になっていたのでした。
「そんなに? もっと取ってきたらよかった?」
なんかたくさんあったよ、個数制限もなかったし今からでも10個くらい取ってこようか? と音也くんが小首を傾げている。
「いえ! ……あのっ。たしかに、このぬいぐるみは大好きです。気がついたらたくさん集まるくらいには……」
音也くんが座るためのソファを先に占有してしまうくらいに増やしてしまったのは申し訳なかったですと謝りつつ興奮で高まった胸を抑えながら、どんどん伝えたいことばかりが溢れてくる。
「でも、音也くんが目が合ったって連れてきてくれたこのコが好きです」
だから、大丈夫ですと伝えたつもりなのに、音也くんが……今まで見たことがないような不思議な表情でこちらを見ている。
「春歌の一番はそいつなの?」
「!? え……」
「俺たちのことはもういいの~?」
音也くんが膝に乗せていたぬいぐるみたちを器用に扱いながら、わたしの方へとぬいぐるみの群れと共に押し寄せてくる。
「ま、待って、待ってくださいっ、なんだかくすぐったい……!」
「この中なら春歌は誰を選ぶの? こいつ? それともこいつ? こいつか、それとも新入りのこいつ」
どれだどれだ、どれなんだ、と急に迫られて、わたしはあたふたしながらも、ぬいぐるみの隙間からいたずらっ子の表情を見せて無邪気に笑う音也くんを見つける。
「わたしのいちばんは、この人です」
どうやって伝えたらいいかなと悩んで、音也くんのほっぺを指でつんと小突くと、勢いよく迫っていた音也くんは「ん……!」と困ったような表情で見つめてくる。
「う! ん! ……うーん……!」
「どうしたの音也くん」
「……や! ななななんでもないけど!」
さっきまで近い距離で、目も合わせてくれていた音也くんが急に目をそらしてお話してくれない。
どうして? とさらに彼の表情を覗き込もうとすると、とってきてくれたばかりのぬいぐるみで音也くんは自分の表情を覆い隠してしまった。
「……お願いがあるんだけど」
「? はい」
「あっ、こいつがお願いしてる感じということで」
「……? はい」
つまりは今は、このぬいぐるみが話しているということ……ですね? と思いながら頷くと音也くんもわかってくれるよねという様子で頷いている。
「さっきの嬉しすぎたからさ」
音也くんを覆い隠していたぬいぐるみは、表情一つ変えていないはずなのに、背後にいる音也くんの声色だけで戸惑っている様子が伝わってくる。
ただ、お互いに目と目を合わせて会話するのが恥ずかしくなってきているのがわかる。
そんなドキドキ感の中、音也くんは手にしていたぬいぐるみで隠していた顔をこっそりと覗かせて、照れくさそうな表情でお願いごとを教えてくれた。
「嬉しすぎたからー……今夜はもう少し春歌と一緒にいたいな?」
本当は、明日の朝早くにもお仕事があるというのを聞いていたから、お互いに話したいことを終えたら今日は早めに解散しようと約束していた。
寂しくても、お互いのためだからって納得していたけれど、やっぱりもう少し一緒にいたいと思っていて、その気持ちが一緒なのだと思うと嬉しくなる。
彼のお願いに応えようと思って、でもどうしても恥ずかしかったから、音也くんのお膝にいたぬいぐるみを抱き上げて、音也くんと同じように自分の顔を隠しながら、本音を打ち明ける。
「……えと……わ、わたしは、音也くんに帰ってほしくないなって思ってます」
「えっ」
「えっ?」
あれ、何か間違えたかなとお互いに合わさった驚きの声に驚いてしまう。
音也くんはひたすら戸惑った表情をしながら「帰って欲しくないって、それはさぁ……」とどういう意味なのかなあとなぜか、その心は? というように真意を問われてしまう。
「……そ、そ、そのままの意味です……」
確かに、音也くんは〝もう少し〟一緒にいたいといってくれたけれど、〝もう少し〟が終わってしまったら帰ってしまうんだなと思うと寂しくなってしまって、音也くんの言った〝もう少し〟どころではなく、できたら帰らないでほしいと願ってしまった本音はあまりにもワガママすぎたのかもしれない。
もしかすると間違えたかもと動揺していると、音也くんはポンポンと頭を優しく撫でてくれた。
その大きな手が、すごく暖かくて、どこか優しくて心地よくって。
頭を撫でながら、彼が見せてくれる無邪気な笑顔と一緒に急に耳元に唇が寄せられたかと思うと「じゃあ朝までよろしくね」と熱っぽく囁かれて、心臓が止まるんじゃないかなってくらいに脈打つのがわかった。
「それで君たち、全員あっちを向くように」
音也くんは唐突にぬいぐるみたちを集めて、ソファの背もたれを向かせるようにして並べていった。
なぜだろう? と疑問が浮かんでからすぐに、音也くんの唇が触れて、ああ、そうかとすぐに答えがわかる。
お互いの吐息を混ぜつつ、彼の背中に手を伸ばしながら、やっぱり今夜は帰って欲しくないとその気持ちを強くした。

たかさか
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