31回のキス(音春)

  • 付き合ってから初めて長期間離れることになった音春のお話です。本に収録しようとしてボツになったやつ

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SIDE:OTOYA

「えっ。このロケ一ヶ月もかかるの……?」
「海外ですからね、それくらいかかるでしょう」

渡された資料を見て、一瞬で色々なことを考える。仕事を選べる立場なんかじゃないってことはわかっているけれど、それでも一ヶ月……。

「まさか他の仕事とブッキングしていたりするんですか?」
「ままま、まさか。事務所側で調整してくれてる仕事以外受けてないよ、今は」
「い、ま、は?」
「前は頼まれたらちょっとしたミニライブしたりしてたけど、おっさんに怒られてからはやってない」
「当たり前ですよ……何を考えてるんですか何を」

同じような資料を一緒に渡されたトキヤは当たり前だという様子で資料を覗き込んでいた。

一緒の時間に一緒の場所に事務所に呼び出されて、お前たちにきている仕事があると眼鏡をかけた日向先生から資料を手渡されて、その仕事のことを知った。

概要からすると映画の撮影だ。海外をテーマにした映画で予算もたくさんあるから海外ロケが主軸になっていて、提示された期間はがっつりとロケをするらしい。

幸い今は定期的に出ているバラエティもないし、日本を一ヶ月離れることへの支障はあまりなさそうだった。

「ほんじゃ、これから先の一ヶ月のスケジュールはこれで組むからな」

資料を一読して質問はあるか? と聞かれていたが、内容を読むことに精一杯になっていた。日向先生に質問をする、という余裕が次に出てこずに手元にある資料にあるテキストを読むことと、聞きたいことで悩んで焦った声で「あのっ!」と手を挙げると、「なんだ?」と日向先生が返事してくれる。

「ええと。一ヶ月海外に行くってあるけど、ロケ期間中の曲作りはどうなるの?」
「曲作り……? あぁ、七海とお前で進めてた新曲か」
「うん。あ、春歌も一緒にきたらいいのか」

そっかそっかと一人納得して頷いていると、龍也先生とトキヤが呆れた表情でこちらを見ていた。「え、俺なんか変なこといった?」と同じような表情でこちらを見ている二人に尋ねると、日向先生ははぁあ~とかけていた眼鏡を上に追いやってから掌を自分の手で覆った。

「海外か~! すっごい楽しみ。日本と何が違うのかな? ご飯はおいしいかな。俺、日本語しかしゃべれないけど平気かな? あ、春歌とは同じ部屋がいいな!」

日向先生はひたすら掌で顔を覆いつつ、さらに深い溜息をついた。なんでそんな風に呆れたような表情をするのかわからなくて、どうしたの? とまた聞いてみると、トキヤが怒ったような口調で「仕事なんですよ」と厳しく言う。

「うん、わかってるよ。だから春歌も一緒に行って、一緒に曲を作るんだよ。海外で曲作り、かっこよくない!?」
「……」

今度はトキヤまでが深い溜息をついた。そして視線を俺から外すとお手上げといった様子で傾けた首を横に振った。俺以外の二人がちょっと視線を合わせたのがわかる。まあ、俺から言うか、と日向先生は仕方ねえなあとさらに呟いて、俺に向かって残酷なその事実をつきつけた。

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