I FEEL YOU

  • ストーリー性がございません! ただの日常音春の中に、1400のキリリクで頂いた「好きの度合いが「音→→→←春」だと思っていたのに、付き合った途端に「音→←←←春」になっちゃったー!?(音也目線)みたいな話」のつもりで書いた音春です(言い訳は最後のページにある「あとがき」に載せます)

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 いつもこうしているから、今日もこうしている、音也はそんなつもりだった。

 いつものように、シャイニング事務所寮に住んでいる彼女の部屋の前に立つ。

「やっほー、音也だよ~」

 玄関扉のすぐ横にある呼び鈴を鳴らす回数はいつも一回だ。一回のうちに「はい!」という春歌の声が聞こえてきて、玄関の扉が開く。

 でも今日は焦ったように「はいぃぃ!」という間延びした春歌の声が響いたかと思ったら暫くしても玄関の扉は開かなかった。

「春歌~? どうしたの~?」

 心配になって、扉ごしに語りかけるけれど返事がない。

「おーい!」

 ピンポーンピンポピンポピンポーン。

 音也がリズミカルに呼び鈴を鳴らしていると、扉のむこうからドタタタタッなんて激しい足音が聞こえてくる。

 やがて玄関の扉がいつもの優しい開き方ではなく、勢いよく開いたものだから音也も慌てて後ずさってからすぐに、顔を見せた春歌と目があった瞬間「あ! 濡れてる!!」とお互いに叫んだ声が重なったのがわかった。

「おおおお、おおお音也くんどうしたの、すごく濡れてるッ……」

「急に雨が降ってきちゃって。それで自分ちの部屋の鍵、失くしちゃったから春歌のところにきちゃった」

「とととにかく、あがって!」

「春歌も髪、少し濡れてる? それに、あれ、なんかよく見たら俺の服、着てる?」

 彼女の着ていた赤チェックと黄色のワンポイントが入ったネルシャツに音也は見覚えがある。

 先週泊まった時に脱いで、そのまま春歌の部屋に忘れていったものだ。

 今度お返ししますね、と約束していたけれど、それをなぜ今着ているんだろうと視線をシャツに移してじろじろと眺める。

 ボタンが留まっていなくて、ところどころに肌が見えているのが、何だかとてもいけないものを見ているかのような気持ちになる。

 音也の視線に気づいたからなのか、春歌も留めきれてなかった胸元あたりをぐっと隠して「ごごごごめんなさい」と謝罪の言葉を口にした。

「え? 俺のシャツ着てる春歌、かわいいー」

 良いと思うよー、とても似合ってる! と音也が笑うと、いえっ、これには、とても深い訳があるのですっと、春歌はお願いですから聞いて下さいというように主張するのでわかったわかったと音也は二つ返事で了承して、リビングまで移動して二人で話し込む。

「あの。実はさっきまでお風呂に入ってて」

「あっそうなんだ」

「音也くんの声がしたから、すぐに出なきゃって思ったんだけど着替えを置き忘れちゃって……洗面所に畳んであったシャツがあったので、慌てて着てみたらお渡しする予定だった、音也くんのシャツだったんです……」

「そっかあ、お風呂入ってたのか……それは悪いことした!」

 急にお邪魔しちゃってごめんと謝る音也に「そんなそんな」と春歌は慌てふためく。

 それよりも~! と春歌は普段は細い声で喋るのに、普段よりも心配そうな大きめの声で「このままだと音也くんが風邪引いちゃう」と不安げだ。

 いつもはつんつんと自然に伸びる赤毛も雨にしっとりと濡れて、重みがある。頬や首筋から滴るのは打たれてきた雨粒の跡だろう。

 本人はけろっとした表情で、目の前で慌てふためく春歌に何がそんなに心配? と首を傾げた。

「こんなに濡れちゃったら、身体が冷えちゃいます」

「じゃあ、春歌が俺のこと温めて~」

 甘えた口調で音也がお願いと優しく距離を詰めると、あたためる? と春歌は不思議そうに首を傾げている。

 ひとまずタオルがあるので濡れた髪は乾かしましょうと頭の上からタオルをかけられて、ごしごしとすごい勢いで拭われつつも「俺のことを温めて~!」と両手を伸ばすと「もう」と仕方がないなあという口調ではあったけれど、優しい笑顔のまま腕を広げて春歌は音也の腰回りに抱きついた。

(あれれー軽い冗談のつもりだったのに春歌、きちゃった)

 音也が想像していた春歌なら、どうすればいいかなと悩んで困ってしまって、結局は自分の方から抱き寄せることになるんだろうなんて勝手に予想していたのにこれは。

 自分が着ていた薄手のパーカーが濡れていた分、風が吹きつけると冷たいと感じていたけれど今はもう違う。

 人肌の温もりがあっという間にいつもの感覚を取り戻していく。

「……」

 無言のまま、音也は春歌のことを自分の胸の中にしっかりと抱き寄せる。

 温めてという言葉に応えるように、抱きしめようと力をいれてくれる春歌の優しさが素直に届いてなんだか鼻の奥がツンとした。

 なんか俺、自分が思ってるよりも愛されてるのかも。そんな気持ちが胸のあたりを掠めていく。

 俺の方が大好きだから、抱きしめたいだったり、大好きって伝えたいだったり、そうした愛情表現も多くなるんだろうって思ってたけれど、彼女の方から飛び込まれてしまうとドキドキしてしまう。

 ああ俺、春歌に愛されてるんだってそれを実感するたびに、嬉しくなってたまらなくなってしまう。

「そうだ音也くん」

「ん!?」

 胸の鼓動が彼女に伝わっているんじゃないかと心配になってきたところで春歌から声をかけられて、自分のことを見上げる彼女と目線を合わせる。

「鍵を失くしちゃったって言ってたよね。鍵も、うちにあったんです、連絡しようと思ってて」

「ほんと!? マジで、よかった~……! 俺、春歌んちに何もかも忘れていっちゃってるね」

 思い出してみればそんなことばかりだと音也は最近の記憶を手繰り寄せる。

 つい先日、大事なドラマの台本を忘れていってしまって、困っていたら春歌が慌てて事務所まで届けにきてくれた。

 帽子も結構忘れていくことが多い。最近は春歌から玄関前にポールハンガーを置いたから、ここにかけてもらえば大丈夫と教えてもらった。

「音也くんの忘れ物は、ちゃんと届けますから」

 大丈夫だよと微笑む彼女に「でも、取りにいくのも、持ってきてもらうのも、申し訳ないなーとか……」と会いに行ける口実にはなるから、それはそれでいいんだけど迷惑はかけてるよね……とそれがやっぱり申し訳ない。

「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。とりあえず濡れた服は着替えましょう、こっちもちゃんと洗うから」

「あぁうん」

「ごめんなさい、音也くんのこの服も濡れちゃいましたね……」

 自分が着ている洗って返すつもりだったはずのシャツが、抱きしめあったことでほんのりと濡れてしまっているのを見てこれはいけないと春歌が落ち込んでいる。

「そんなに濡れてなくない?」

 気にすることないのにと音也は濡れ具合を確かめるべく、彼女が着ているシャツに触れた。

 布地を確かめるようにして触れればいいのに、身体を撫でるように触ってしまったのは意図的にでも無意識にでも、触れたいと願う本能からだと音也自身もわかっている。

 ぺたぺたと彼の手が服の上から這っていくのを眺めてから、やがてそこはだめといつものように春歌が確かめるように動いていた手首を捕まえた。

「ここから先は立ち入り禁止ですので……」

「しまった……また立ち入り禁止区域に侵入しちゃった」

「音也くん、最近わざと侵入してますよね?」

「ん? 侵入してもOKな時があるから、あえて侵入して確かめてるんだけど」

「……しし、侵入して確かめないでくださいっ……」

 いじらしい態度を見せる彼女に気分が高揚していくのがわかる。

 彼氏と彼女としての付き合いがはじまって、何回目かの交際記念日を二人で祝って、二人で一緒に過ごす時間は増えていたけれど、彼女はいつだって新鮮な反応を見せてくれるのが音也にとってはたまらない。

「とにかく……まずは着替えましょう」

「はーい」

 風邪を引いてほしくないという心からの心配を受け取って、音也は素直に自分が着ていたパーカーを脱ぐ。

 濡れてしまってるから洗っておきますねと春歌が受け取って、ええと、といいながらパーカーのポケットをチェックしている。

「あ、音也くん。メモが入ってたよ。ちょっと濡れてるけど大丈夫みたいです」

「ありがと、これは今出てるバラエティの進行カンペだ」

 なかなか覚えられないコールとか、そういうのをこっそりメモに書いてポケットに忍ばせてるんだよね……と照れくさそうに音也は春歌からメモを受け取る。

「こっちのポケットは何もなし……と」

「春歌、もしかしていつもそうやって俺のポッケ、チェックしてくれてる?」

「? うん」

「そうだったのか……いつもありがとう、次からはポケットの中身を自分でチェックしてから服渡すね」

「いえいえっ。大切なものを洗ってしまったら大変だから……」

 実はつい先日、ワイヤレスイヤホンを洗濯するというミスをしたんですと春歌がすごく悲しそうな表情で報告する。

「あれ、もしかして最近買ったんですって見せてくれたやつ?」

「うん……お仕事の時とか、出先でこれからたくさん使おうと思ってたのに……濡れただけだったら乾かせば大丈夫かもって思ったけど乾燥までかけちゃったから、それがダメだったみたい」

 やってしまいましたと落ち込む様子の春歌を見て、音也は「俺のヘッドホンあげようか?」とそれならデカくてポッケに入らないし洗濯する心配ないよと提案する。

 ヘッドホンならたしかにと春歌も頷いてから、音也くんのヘッドホンはさすがにもらえないですと遠慮して笑った。

「じゃあ明日、春歌の新しいイヤホン買いにいこ。最近駅の近くにできた大きい電気量販店、色んなイヤホンもヘッドホンも試聴できるってすごい話題になってたんだ」

「明日! 行きたいです……! イヤホンのことも音也くんにも聞きたいと思ってて」

「よーし、じゃあ明日一緒にでかけよー! これ下に着てたシャツね。で、ジーパンのポケットの中は……今日は何も入ってない、よし。じゃあ脱いでと……」

 明日の予定を決めてから音也はパーカーの下に着ていたシャツを脱いでから手渡して、次に穿いていたジーンズも脱いで下着一枚になったところで、なんとなく二人の視線が合わさって「……」と声にならない沈黙が訪れて気まずそうに見つめ合ってしまう。

「こっちはー……そんな濡れてないから大丈夫だよ」

 なぜか待たれている気がした音也は、さすがにこれは脱がないよと意思表示をする。

「そ、そそそうですか。えっと、着替えですけど、ここにある、わたしのシャツで大丈夫かな……下はルームウェアのスウェットがこちらに」

 春歌が部屋でいつも着ているスウェットはもふもふした生地をしていてピンク色のストライプが入っていていかにも女の子って感じがするラブリーさがある。

 これでは俺もラブリーになってしまうと音也はそのスウェットをしばらく眺めていたけれど、自分の部屋ならいざしらず、彼女の部屋で下着一枚で歩き回るのがさすがに問題があると覚悟を決めると、ウェスト周りはギリギリだけど穿くことができた。

 次は上と思って貸してくれた薄手のロングシャツを手にとると、これは中々の細身サイズだ。

「これ俺、着れるかな?」

「うーん、音也くんなら大丈夫だと思うけれど……」

 そうした会話をしながら手渡されたシャツを音也が首を通すと、なかなかのピチピチ具合で、もしかしたらブッ壊れるかもしれないと音也は不安そうな表情で春歌を見た。

「春歌、どうしよう。胸のあたりがギチギチいってる」

「た、大変です。今、わたしが着てる音也くんのシャツを……!」

 こっちに着替えてくださいと勢いよくボタンを外して脱ぎ始めた春歌のことを「うわぁ! だめだって!」と静止するけれど、春歌はそんなことを構ってられないといった様子で、普段は肌を晒すことを躊躇するのに脱ぎたがっていて音也も止めるのに精一杯だ。

「音也くん、こっちのシャツに着替えましょう」

「いや、そのシャツは春歌に着ていて欲しいな……」

「でも本当にキツそう……待っててください、ズボンとセットになってる上のスウェットもあるので持ってきますね」

「え」

 やがて、下のラブリーピンクなズボンとお揃いになっている上のスウェットを春歌が持ってきてくれた。

 今日は雨が降っていて冷えるからという春歌の押しの強さに負けて、春歌が普段着ているラブリーピンクなスウェット上下に音也は着替えることになってしまった。

「音也くん、ピンクも似合うんですね。とっても可愛いです」

「そう……?」

「ふわふわのもこもこです」

 いつもわたしがこの服を着てる時はふわふわだ~って抱きしめてくれますよねと春歌の方から急に抱きしめられて「うわ」と音也はつい反射的に声が出た。

「ふわふわのもこもこで春歌が抱きしめてくれるならこれもいいかもしんない~!」

 ラブリーな俺はどうなんだろうと思ったけれど、春歌が抱きしめてくれるならそれでいい! とえいっと音也もしがみついた。

 しばらく二人でぎゅーっと抱きしめ合っていたけれど、今日までの顛末を抱きしめ合いながら考えて、音也は申し訳なくなっていく。

「なんかごめんね。春歌んちにたくさん忘れ物した挙げ句、着替えまで用意してもらって」

「いえいえ」

「……忘れ物しまくってて思ったんだけどさ」

「? うん」

「あ、いや……この流れで言うことじゃないか……?」

「?」

 ついうっかり言いそうになったけど、そんな理由やきっかけでこんなことを言ってもいいのかなあと悩ましげな様子を見せる音也が、何の話をしたいのか春歌は心当たりが浮かばない。

「もう少し考えさせて。ってか忘れ物しないように俺、気をつけるね」

「うん。音也くんが忘れ物してもちゃんと届けるから安心してくださいね」

「……そうやって言われると俺、もっと甘えちゃいそうになる……」

 甘やかされてるなあって最近すごくそう思うんだよねと、これではたしていいのだろうかなんてそんなことを気にしているという口調で音也は続ける。

「春歌、忘れものしたら届けてくれるし、ごはんも好きなものたくさん作ってくれるし、洋服だって洗って畳んでくれちゃうし……」

「それはだって」

「疲れちゃった時は眠るまで膝を貸してくれるし、触りたいっておねだりしたら触らせてくれるし、髪も撫でさせてくれるし、キスもいっぱいしてくれる」

「でででですからそれは」

「俺が色んな話をしても、たくさん聞いてくれるし、あれがしたいこれがしたいって誘うと一緒にしようって一緒にいてくれる……」

 時々、こうやって振り返ってみると、いつの間にか当たり前のようにそうしてくれてるって思うけれど、当たり前じゃないのかもしれないと音也は振り返ってみて考える。

「やっぱり恋人同士だから色々してもらってるんだよなーって思うと、甘えちゃってるなーみたいな……」

 恋人という関係性。友達とは違う初めての関係性に溺れてるような気もする。

 春歌が彼女になってくれたから、彼女として恋人として一緒にいてくれるのだと、お互いの関係性が当たり前にそこにあるように勘違いしそうになる度に、そんなことを思う。

「……恋人同士だからしてるっていうか……音也くんのことが好きだから……」

「?」

「ええと、もちろんその、わ、わたしは音也くんの彼女なので、彼女として色々しなくてはとは思うんですけど……」

「えー、そんなこと思ってたの」

 そんな気負わなくてもいいのにと思う一方で、ただそばにいてくれるだけじゃ我慢できないような欲をぶつけていることにもやっぱり気づいてしまって、まあそうか、と音也はひとり納得して頷いた。

「わたしが音也くんと一緒にいて、したいなって思ったことは全部その、音也くんのことが好きだからで……お付き合いしているからっていうのは実はあまり考えたことなくて……」

 忘れ物を届けるのは、音也くんが困ってるかもしれない、届けることでお役に立てるかもしれないと思うからで。

 服を洗濯するのは、次の日に気持ちよく服が着れたら音也くんが喜んでくれるだろうと思うからで。

 音也くんがアレを食べたいというのを聞いて覚えていて、作ると、本当に喜んで美味しく食べてくれるからごはんを作るのが大好きなだけで……。

 デートをするのは音也くんと一緒にいたいからで、手を繋ぐのは握って欲しいと思うからで。

 触っていい? って聞かれていいよっていうのも触って欲しいからで、音也くんがしたいことについていきたいって思うからついていくのであって……。

「だからその、ただこうしたいって思っているだけだから……」

 えへへ……とはにかんだように自然な表情で笑う春歌のことを見て、音也はドキリとした。

 ドキリとした一瞬の表情を優しい眼差しで見つめる春歌に気づいて音也はハッと気づく。

「あ! ちょ、待って、今は俺の顔を見ないで……」

 うお、待って待ってと抱きしめ合っていた身体を離して、あわあわと腕をぶんぶん振り回しながら、今は見ちゃダメダメとこっち見ないでーっと必死に春歌の視線から音也は逃れたそうにしている。

「……? 音也くん、どうしたの? 具合悪い……?」

「全然悪くない~っ……むしろ元気! いやだって、その……こんなこと言われるなんて思ってなくて」

 すべての始まりは自分からだという自負が音也にはある。

 付き合って欲しいと告白したのは他ならぬ俺からで、もしかしたらこの言葉を口にしなかったらいつまでも友達以上恋人未満ともいえる「信頼し合ったパートナー同士」のままだったかもしれない。

 誰も君の代わりになんかなれはしないって気づいてしまってから、できたら君のことが大好きだっていう俺の気持ちに応えてくれるのは俺だけにして欲しいってそんな独占欲が湧いて出てきた。

 だからどうしたって、俺の方が春歌のことが好きなんだっていう自信があって、俺の方が君のことを誰よりも大切にできるんだとそればかりを思い込んでいたのに、一方で君からも大切に思われているのだと、あらためてその気持ちを言葉にされてしまうと顔が火照っていくのがわかった。

 嬉しい。すごく嬉しい。顔がへにゃへにゃになってしまう。

 本当は、俺ばっかりが愛してるだけでもよかった。

 一方的な愛のようなものを、ただ受け入れてくれるだけでも十分だったのに、ただ俺のことが好きだからそうしてるなんて話を懇々と優しく話してくれる彼女の表情や声が愛おしくて仕方がなかった。

「音也くん、すごい笑顔……」

「あーだから見ちゃだめだってば、今の俺、もうダメダメかも……」

 普段アイドルっていう仕事をしているから、笑顔を「見せる」ことを意識しているけれど今は違う。

 感情が決壊するみたいに溢れていって、本当に嬉しくってたまらなくて、心にある感情が表情になって出ていってしまってそれを制御することができない。

「音也くんの笑顔を見ると元気でます」

 ニコニコと春歌が笑う。

 ふとした瞬間に見せる彼女の笑顔がとっても可愛いらしいと、単純に思った最初の素直な気持ちを思い出す。

 付き合う前は、喜んでもらえるかもしれないことをあえて選んでいたけれど恋人同士になって気付いたことがある。

 春歌は俺が笑うと、とってもいい笑顔で笑ってくれるんだ。

 俺の笑顔を見ると、すごく素敵な笑顔を見せてくれる。

 君のことが大好きだよって気持ちで、俺が自然と笑顔になって、その笑顔を見て、君が嬉しそうに笑ってくれる。

 こんな嬉しいことないよねってたまらないのに、当たり前に感じるこの幸せがどこか怖くも感じてしまう。

「俺は……春歌の前ではかっこいい俺でいたいと思うんだよね」

「? 音也くんはかっこいいよ」

 すぐにかっこいいですと即断して伝えてくる春歌はすごく真剣だ。

 そっか、俺のことをかっこいいって思ってくれるんだとしたら、こんな気持ちになってくれるよねと音也は確認する。

「俺は春歌にずっと笑ってほしいし、俺にドキドキしていてほしい」

「ドキドキですか?」

「なぜなら俺は、俺にドキドキしている春歌を見るのが大好きだから……!」

 知ってる? 笑顔の春歌もすごく可愛いんだけれど、俺のことをドキドキしながら見てるんだろうなってわかる春歌も可愛いんだよ? と君の知らない君のことを教えてあげたいと、身体を離していたはずなのに、いつの間にか距離感を見失った音也と身体のあちらこちらが密着するのがわかって「音也くん、興奮してる」と素の感想が春歌から飛び出した。

「こ、こーふん!?」

 寄せられたその感想は、まさに今の状態を表すのには的確な表現だったけれど、興奮……ってそんなことを春歌から言われるのはちょっと、なんかいやらしい感じがすっごくすると音也は無駄に喉を鳴らす。

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