俺んちに先に入ってていいよ、今夜は遅くなるからと春歌にメッセージを送信してから、ああでもちゃんと部屋で待っててくれるだろうかと心配になる。
少し前に渡した合鍵を見て(音也くんのお部屋に入ってよいのでしょうか?)と真剣に悩んでいた彼女の姿が思い浮かぶ。
そんなに遠慮することないのに~。
例えば二人で部屋にいて、どっちかが用事で出かけなくちゃいけなくなった時にでも、後から出る方が鍵をかけられるようになるだろ? って話したら「なるほど!」と納得していたけれど、俺としてはいつ遊びにきてもらっても構わないし、好きに出入りしてもらってもいいけど、春歌としては遠慮しているのだろうな、というのがわかる。
付き合ってから双方の部屋を行き来する機会が増えて、ピアノがある春歌の部屋で会話をした方が曲作りは進むから、主に春歌の部屋に集合!っていうのが多かったけれど、春歌が俺の部屋に遊びにきてくれるのだって、どこか新鮮で楽しい。
だから会う約束をする時に「俺の部屋においでよ」と今回は誘ってみたのだけれど、ここのところの忙しさはとくに群を抜いている。
そして、部屋においでよと招待したのに、部屋の主は部屋で彼女のことをお出迎えすることができない状態でいる……。
ミニドラマの撮影に、グループでの新曲レコーディング、いつも出演しているスポーツパラエティにくわえて、先輩たちがMCを務めている各番組へゲストで呼んでもらえることも多くなった。
ライブの企画も走りはじめているからセットリストの構成もそうだし、自分自身のボイストレーニングの時間も欲しいし、春歌とも新曲の打ち合わせを重ねていたから毎日が本当に目まぐるしい。空いてる時間にどんどん予定を詰め込んで、それをこなし続けているこの状況はすなわち「忙しい」ってことなのだろう。
もちろんスケジュールが煮詰まっている時には混乱することはあっても、自分自身がやりたいことばかりやれていたから、それを「大変だ」とか、立ち止まって考えることがほとんどなかった。
ただ、春歌ともっと話がしたいな、とか。
曲の打ち合わせという名目で彼女と会話する時間はたくさんあるけれど、二人とも作曲の話になるとその話ばかりをしてしまって、次に彼女と会った時には「こんな話をしよう」「こんなことがあったよ」「今度二人でここにいきたい」とか、自分が最近食べて美味しかったものを二人で食べにいきたいとかそうした時間を取れないことが多くなって、もしかしてこれが「忙しい」ってやつなのかなって自覚しはじめることが増えた。
今夜の約束だってそうだ。
春歌は俺よりも俺のスケジュールをなぜか把握しているから、忙しそうだからまた今度にしようって今夜の予定も組み直されるところだった。
俺のことを気遣ってくれてるのだろうけれど、忙しくて会えないから、余計に会いたくなっちゃう。
そうした気持ちを我慢して、やっと会えたって思えたらすっごく嬉しいんだっていうのも最近わかってきたんだけれど。
でも我慢しすぎていってしまったら、じゃあいつ会うの? ってなっちゃう。
強引に予定を入れてしまったっていう自覚はあるせいで、落ち着きがないって思われたらどうしようって不安に思うこともあるけれど……。
おまけに、できれば俺の部屋で待っていて欲しいなんてリクエストまでしちゃった。
仕事が終わったら、俺が春歌の部屋に遊びに行く、いつものそれでも全然よかったけど、今日は春歌に、俺の部屋で待っててほしかったんだ。
(でもなぁ、春歌のことだから、申し訳ないから自分の部屋にいるね、とか部屋に戻ってそうなんだよね……)
俺んち、先に入ってていいよというメッセージを送ってからすぐに番組収録に入って、問題なく収録が終わってから彼女からの返信を確認すると、送ったメッセージに既読がついていなかった。
(……もしかすると、もしかしないでも、寝たかな?)
もう十分、夜遅いもんね。また次の機会にしましょうといわれてもおかしくはない時間……。
しばらく悩んだ挙げ句、「収録終わったから帰るね」とメッセージを追加でいれてから、今日は現場まで自転車できていたから駐輪場に移動して、そのまま自転車にまたがった。

たかさか
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