七海がおかしくなっちゃった!

  • 学生時代の音春なのですが、当方が「うわあああ!えっちなおとはるが読みたい!!!」と急に発作を起こしたことにより生まれた昔の再録に書き足したものです。ご都合主義で順番逆で矛盾もわりとひどいので、ご注意ください。

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 はてしない違和感に今、俺は襲われている。

 なぜなら、あの、七海が、なぜか俺と手を繋いで歩いているからだ。

 授業が終わり放課後の自由時間には、いつものように二人で自主練をした。帰りにピックや弦の替えが欲しくて買い物に行くといったところで七海もついてくるという。

 願ったり叶ったりだと思って、一緒にいこうと頷くと、少し準備があるというから彼女の支度が終わるまで、学園の入口で待っていた。

 結構時間がかかっているな~と学園にそびえたつデカイ時計を眺める。

 とはいえ七海と待ち合わせをする時はこうして遅くなることもあったから、特段気にせず俺は待ち続けた。

 やがて七海が「お待たせしました!」とパタパタと慌てた様子で小走りでこっちまでやってきた。

 俺は全然待ってないよ〜という態度で七海のことを出迎えたんだけれど、当の七海は「待たせてごめんね」と俺の手を急に掴んで握りしめた。

「はえっ?」

「行きましょう、一十木くん」

「あ、うん、行く……行くけど~……?」

 この手はなんだろう?

 ……とってもやわらかくて、ちっちゃいな。それになんだか温かい。俺の掌からじわじわと汗が滲み出ているけれど、それが七海に移ってないか急に心配になって手を離した。

「一十木くん?」

 どうして? という表情で七海が俺を見る。

 俺だって(どうして!?)という気持ちでいっぱいだ。……そんな急に、自然に、お互いに手を繋ぎ合う関係性だったかと言われたらそうじゃない。俺たちは信頼しあっている最高のパートナーになっていっているとは思うけれど、あの七海がいきなり俺の手を繋ぐとかそういうのは考えられない。いつかそうなってくれたらいいなとは思ってるけれど……。

「あ、いや……俺、汗たくさんかいちゃってるかもって……」

 ごしごしと制服のズボンでバレないように拭いた。その手を七海がまたしても遠慮なく掴んで「気にしません」と笑った。

「七海が気にしなくても俺は気にするっていうかさ……」

「そうですか……?」

 なななんでそんな悲しい表情をするの? 手を握ったら七海は笑ってくれるんだろうか?

 そんなことを単純に考えて俺は慌てて彼女の手を握った。すると七海は嬉しそうに笑ってくれた。

 心臓はドキドキ、バクバクと音を鳴らしている。

 でもこうして七海が喜んでくれるんだったらそれでいいんじゃないかって納得しかけてる。

 二人で手を繋いだまま、いつもお世話になっている楽器屋さんに向かい、店内をぐるりと廻る。必要だったピックと替えの弦を選んで買って用事はもうおしまいだ。そろそろ帰ろうかと七海に声をかけると、なんだか少し不満そう。

「……何か飲んでく?」

 帰り道にあったフルーツジュースのスタンドを見て、声をかけると七海は嬉しそうに頷いてくれた。

 俺はアップル100%のジュースに、七海はいちごとミルクを使ったスムージー。バイト代が入ったばかりだったから七海に全然奢れると思って奢るよと声をかけると七海はいいんでしょうかと最初は遠慮していたけれどやがて大人しく奢られてくれた。

 二人でジュースを飲みながら今作ってる曲の雰囲気について話し合う。

 音楽の話をしている時の七海はいつもの七海だ。楽しそうに曲のイメージやアレンジを提案してくれて、俺の話もたくさん聞いてはいいアイディアですと褒めてくれる。

(なんだろう……集合する前に転んで頭打ったりとかしたのかなあ?)

 打ちどころが悪くて、おかしな行動にでてしまってるのかもしれないなあと残り少なくなったジュースを吸ってから、ストローをなんとなくガジガジ噛みつつ、隣にいた七海の髪に手で触れた。

「一十木くん?」

「ん~……」

 名前を呼ばれつつも、七海の毛先を自分の手指に巻きつける。つるつるしてて、すべすべだ。

 俺の硬くてつんつんしてる髪とは大違い。

 そのまま七海の髪の毛を弄びながら、転んだとしたら頭のどこかにたんこぶの一つでもできてやしないかと心配になって頭をなでなでと撫で回してしまった。

「一十木くんくすぐったい」

 ふふふと七海が笑う。可愛いなと思った。いつも思ってはいるけれど、今日は特別に可愛く感じた。いつも照れくさそうにしてる彼女のことも好きだけれど、少し積極的な七海もいいかも。

「どうしてそんなに撫でるんですか?」

「ん~……七海が転んで頭にたんこぶできてないか心配になっちゃってさ~」

「?」

 俺の言ってる意味がわからないよと見上げた七海と目が合う。

 思ったよりも二人の距離は近かった。七海の吐息が俺の鼻先を掠めるくらいには。

 吐息に触れたくて覗き込んでしまったところで、七海が踵をあげたのか、より距離は近づいた。

 その瞬間、お互いの唇が撫でるように触れたのがわかって俺はひゃあああ! と叫んで後ずさってしまった。

「……待て! まってまってまって……!」

 まて、今、俺達、唇、触れ、あっ、これ、キスッ、こんな、いきなり、俺からするはずだったのに、なんだっ!?

「一十木くんどうしたの?」

「や……いやいやいや、七海、今、背伸びした!? したよな? しちゃったらキスしちゃうってわかってただろ!?」

 やっぱり今日の七海はおかしい。絶対どっかに頭ぶつけてるよ、こんなの。

 あんなの絶対にわざとじゃないとできない。あの距離感を埋めるような積極さは普段の彼女にはない。

「てか俺、唇っ、ガサガサだっただろっ、ごめんその」

「そんなことないですけど……」

「……ほんと?」

「うん」

 俺とは違って平然としている七海に俺は驚いた。

 え。俺はファーストキスだったけれど、もしかして七海は違う? もしかして百戦錬磨? そんなことある?

 もしかして俺の知らないところで知らないやつに口説かれて迫られてキスされちゃったりした?

 そんなのは困る。

「……もっかいしていい?」

「うん」

 次はちゃんと……しっかりとキスしよう。唇も舐めて……これなら大丈夫かな。

 緊張のあまり震える手で彼女の小さな丸い肩を必死に抑え込みながら、キスをした。

 だめだ緊張しすぎて何がなんだかわけがわからんと思っていると、し、舌が、七海に舌が入り込んできて、待って、そんな、こんなことある……? と動揺しているうちに俺の舌は巻き取られて絡められていってしまう。

 息ができない、どうしたらいいんだ、鼻で息したらいい? とため息をつくように息継ぎしながら、初めてなのに情熱的なキスを俺達は外で突然おっぱじめてしまった。

 さすがに人目も気になってやばいと思った俺が口を離すと、俺と七海がさっきまで絡めていた舌同士が唾液の橋を作っていくのがわかる。

「……こ、こんなのダメだってば~……!」

 俺は泣きそうになりながら七海に訴えかける。

 そりゃ俺もキスはしたかったよ。でもこんなふうに七海に唇を奪われるなんて思わなかったよ? 階段を何段飛ばしてるんだっていう話だよ!

「ダメでしたか……?」

 キスしたくなかった? みたいなうるうるとした瞳で七海から見上げられて俺は「全然ダメじゃないけど!」と本能で返事をしてしまった。全然ダメじゃない。けど何かが違う……。本当にこれでよかったのかな? なんて理性だけでは語れない違和感が支配している。

「七海こそ、俺としちゃっていいのかっていうか」

 俺はしたいけど、したかったけど、こういう形でいいのかわからなくて動揺しすぎて、肝心の相手である七海はこんないきなりのキスでよかったのって確認したくなる。

「わたしは、キスもその先も出来ます」

「えっ。……え? 何、なん」

 その先?

 俺がキスだけで動揺してるのに、眼の前の女の子は、キスよりその先のことすら望んでるだって?

 途端に何も考えることができなくなって、これ以上一緒にいたらとんでもないことになるんじゃないかって思った俺は今すぐこの場を離れたいって思った。

 いつもなら七海とできる限り一緒の時間を過ごしたいなんて無意識にでも思っているのに。

「今日はもう帰ろう」

 こっちこっちと七海に声をかけて、俺はあたふたと学園寮へ向けて逃げるような足取りで向かった。

 男子寮と女子寮が分かれる場所で「じゃあまた明日」とできる限りいつも通りを装って七海と別れたけれど、もう感情はグチャグチャだった。

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