部屋に戻ってきて俺はすぐにベッドに飛び込んで、いきなり唇を奪われたことを思い出しては事実を必死に受け止めようとした。
トキヤはまだ帰ってきていなかったのがこれ幸いと、俺は夢みていた七海との心高まるキスではなく、いきなり彼女に唇を奪われてしまったことが想像以上にショックだったのだと気づいてひたすらに落ち込んだ。
落ち込んだ理由の一つに、俺は自分が思っていたよりも彼女との関係性にロマンティックとでも言うのだろうか、夢を描いていたことがあったんだなとか、そんなことにもなんとなく気づいてしまった。
そのまま数分ベッドの上で毛布に包まりながら(でも、柔らかかったな)(舌が絡まった時すごくえっちだったな)とかぼんやりその瞬間を思い出しては、制服のままだったから着替えなくちゃという考えもありつつズボンを脱いで下着の中に手を入れた。
七海との初めてのキス……を思い出しながら頭の中は混乱しているのに、下半身はやけに正直にあの時の衝動を思い出している。
親指で生ぬるい皮のあたりを捲って自分の心をむき出しにするみたいに分身を剥きながら俺はいつの間にか自慰行為に耽っていた。
ここのところは真剣に課題に取り組もう、七海に対して邪な気持ちを抱くのはやめようと、禁欲を強いていたせいもあったのか反動がデカすぎた。
握りしめあった手の温もり。触れ合った唇の柔らかさ。絡んだ舌同士に艶かしさ。その一つ一つを思い出しながら、声を押し殺しつつ手淫に耽る。
いつもだったら果てるまでに時間がかかるのに今日はあっという間に手の中で発射してしまった。
ティッシュの準備をするのも忘れて勢いでやってしまった、最低だ……。
頭の中でも口の中でも自己嫌悪を表現できるありとあらゆるワードを選んでぶつぶつと独り言のように繰り返しながら後始末をしているといらぬ想像が沸いてくる。
彼女は「キスもその先もできます」って言っていた。
そりゃキスはしたいって気持ちはあったけれど、その先のことなんていずれそうなるにしてもそれは色々と彼女と一緒に過ごした先でああだこうだっていつの間にか自然にそうなるものであって、今すぐしたいなんて思うほど衝動はなかったはずなのに。
でも、あれだけ積極的な七海なんだから、キスしちゃったらその次だってあり得るよな……。
どうしよう、俺はまだ心の準備、何もできてないよ。
今日みたいにいきなり押し倒されて、されちゃうってこともあるよね……?
されちゃうってなんだよ……。するのは俺だよ、俺の方がリードしてあげなくちゃダメだろっ。
いつもなら、もしかしたら七海と付き合って、キスしてその先もあるかもって想像しないことはなかっただろ。
でも今日の出来事一つだけで、七海に迫られて驚いてる俺の姿を想像してしまう。正直、それも悪くないとか思っちゃってるんじゃないのとか、潜在的な性癖っていうのか、そういうのも俺はあるのか……? と自分のことがわけわからなくって怖くなってくる。
「戻りました……ひっ、なんです?」
気がつけば俺は「あー!」と叫び声をあげながらベッドの上で毛布に包まっていたようで、帰ってきたトキヤの「なんなんです……」とドン引きした声が聞こえてきた。
「あなた、こんなところに制服を……これは下着?」
途中から邪魔になって脱ぎ捨てた俺のボクサーパンツに気づいたトキヤが拾い上げているのを察した俺はかぶっていた毛布から顔を出して声をかける。
「トキヤ、それこっち投げて!」
「……あなた、今どういう格好してるんですか」
「なんだっていいだろっ……放っといて……」
トキヤの呆れたような、絶望したような表情を見て、なぜか俺はちょっとホッとした。
投げろといったもんだから、俺のパンツが飛んできて、顔にぶち当たる。
「最悪だ」
「最悪なのはこっちです」
帰ってきてそうそうに何てものを見せるんですか、はしたない、着替えるならちゃんと着替えなさい、裸で寝るのは許しませんよとブツブツとしたトキヤの小言を聞きながら、明日、七海と会ったら何の話をしよう……と俺はそればかりを考えていた。

たかさか
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