◇
一方で音也はとんでもない夢を見ているつもりだった。
何もかも中途半端にしてしまって寝落ちしてしまったが故の、悔しさがこうした夢を見せているのだろうと思いこんでいる。
あの恥ずかしがり屋の彼女が積極的に自分のを口で気持ちよくしてくれて、あまつさえ口の中で射精してしまうなんていう、最低で最高な夢だ。
あの春歌がこんなことまでしてくれるはずがない。だってあんなに恥ずかしがりやなんだから。
だからこれは夢なのだと音也は普段の彼女が見せるいじらしさから、これは夢なのだと信じている。
それにしても、最後はお掃除までしてくれている。綺麗になったと同時にもう一度スタートラインに立たされてしまった音也はどうせ夢の中だし、挿れて、と彼女におねだりした。
「……挿れるの?」
夢の中の彼女は現実と同じように、もじもじと困ったような仕草をしている。
おくちで出来たんだから、自分で挿れるのもできるだろ? と音也がもう一度、挿れて、と促すと春歌は観念したのか覚悟を決めたのか、身につけていた部屋着のハーフパンツを脱いで、下着一枚の姿へと変わっていく。
しばらく悩ましいといったような動きを続けた後、春歌は下着にも手をかけて、脱ぎ終えたようだった。
ええと……という戸惑ったような声が聞こえる。春歌が音也の上に馬乗りになったのが、わずかにかかる重みでわかる。
おっかなびっくりした様子で、春歌は音也の局部の上へと、自身で跨ぐようにしながら擦り付ける。
いつもは春歌の様子を見ながら責めている音也にとって、彼女の具合がどうなっているのか全くわからなかったけれど、局部同士が触れあった瞬間のぬるぬるとした様子に(春歌もちゃんと濡れてる……)と夢うつつでもそんなことを考えてほっとした。
こ、こうかな……? と春歌が悪戦苦闘しながら、先端と入口同士が何度もクチュクチュと音を立てあいながら触れ合う。
もう少し彼女が大胆に両脚を開いて、腰あげて落とさない限りでは、挿入まではいかないだろうと音也は薄目で夢を盗み見しながらそんなことをぼんやりと考える。
けれど、こうした拙い春歌の動きだけで責められるのも焦らされている感じがしてたまらなく気持ちいい。
春歌がどうしよう、どうしようと困った声をあげながら、腰を動かして入口を探しては擦り上げる行為はなぜだかとっても興奮する。
(やば、さきっぽだけでイカされそうなんだけど……)
夢の中だからやたら感度が高いのかな? こういう時って大体夢精してるよね? パンツの中がぐしょぐしょになってマジで気持ち悪いからイヤだけど、なぜだか今回は春歌が本当にいるように思えるリアルさがあるから、これなら安心して射精できる気がしてしまう。
先ほどから薄目を開けると夢が現実に見えてくる。
俺に春歌が跨って、必死に腰を動かしながら、大切なところをお互いに擦り付け合っている。
もはや夢か現実か、その狭間にいるのか音也にはもう、わからない。
そして、春歌が少し泣きそうな表情で「ごめんなさい、どうやって挿れたらいいのかわかんないの……」としょんぼりとした表情を見せた瞬間、音也の中で何かが爆発する。
「ひゃ!」
春歌の短い声と一緒に音也は苦悶の表情を浮かべた。
(うわ、でちゃった……だって可愛すぎるもんー……)
最悪だ、と音也は思った。
最悪だけど、あまりにも春歌が可愛すぎた。あきらかに今は射精するタイミングじゃなかった。
でもま、いっか。何しろ夢だし。夢だから、射精したのは二回目だけれどもう元気だ。だってまだ春歌の中に入ってすらいない。
吐き出された白濁とした精液にまみれた先端を春歌はいまだに戸惑いながら腰を使って挿れ続けようとしていた。
ぬるっと滑るたびに気持ちよくて、でも焦らされるのがつらすぎて、音也は春歌のくびれた細い腰に向けて手を伸ばしてしっかりと掴む。
「腰をもっと上げて……」
眠気に負けたようなのんびりとした声で音也がゆっくりと春歌に指示を出すと「おおおおおとやくん、起きて……」と動揺しつつも持ち上げられた腰を、言う通りに春歌はあげた。
「もっと両脚……開いて……」
「う、うん……」
「それで自分の手を使って俺の持って……」
「はい……」
「それで、自分の入口に向けて合わせて……腰を落として……」
まるで催眠にかかったかのように音也の優しい声にあわせて春歌は「はい」と頷きながら、言われた通りに自分の割れ目に音也の先端をあわせて咥えこませていく。
何度か滑ってしまったけれど、ぐっと力をいれると、ようやく大きな鈴口がにゅるりと春歌の割れ目に食い込むように埋め込まれていく。
「はっ……あっ……」
春歌の短い声と一緒に、ああ、入ったぁ……と音也も温かいものに包まれていくのを感じて、ようやく二人が繋がったことを実感する。
春歌の手が、音也の胸板に乗せられて、体重がかかってくるのに応じて、先端から根元まで全部ぐっぷりと咥えこまれていくのが音也は感覚でわかる。
「はー……きもちい……春歌、じょうずに挿れられたねぇ……」
「う、うん」
「じゃあ、もっと両脚開いて……俺に見えるように……」
どーせ夢だし、というのを音也は頭の中で繰り返していた。
現実でこんなことを春歌に頼んだら、音也くんのえっちと春歌から嫌がられてしまうかもしれない。
でも夢を見ているはずの目の前の春歌はこんなにも淫らに俺のことを求めているのだから、少し大胆なお願いをしたってかまわないだろう。
春歌は少しだけイヤイヤという表情はしていたけれど「おねがい~……」とおねだりを続けたところで、やがてリクエストに応えるように、両脚を開いて、二人の繋がりがはっきり見えるような姿勢になってくれた。
「うわぁ……えろい……さっき俺が出したやつが春歌のナカから溢れて出てきてるよ……」
「だ、だって……そのまま挿れちゃったから……」
決して春歌のナカで射精したわけではなかったのに、擬似的にでも中で出したみたいになっているように見えて、夢ってやつはとんでもないんだなと音也は思う。
「じゃあ、俺のがもっと春歌のナカで混ざるように、春歌が腰を使ってかき混ぜて?」
「かき……かき混ぜるの?」
こ、こうでしょうか……と腰を回し始める夢の春歌は従順だと音也は興奮する。
自分に見せつけるように股を開いて、腰を回し続ける春歌の痴態はたまらなく様々なものを刺激してくる。
ずっと責められてるだけじゃつまらない、彼女を触りたいと音也も身体を起こして彼女とのつながり部分を手で触れて「本当に一つになってる」と言葉にすると腰を動かしていた春歌が「恥ずかしいです」と動きをとめてしまった。
「こら、とまらないで」
腰を動かすように促すべく音也が、自身のモノが食い込んでいる上部分でぷっくりと膨らんでいる突起をきゅっと摘むと春歌が「ひゃあ!」と激しい声をあげたのと同時にナカが激しく締まったのを感じて音也も「う」と反応する。
「もしかして……挿れながら、ここ弄られると春歌、ヤバい?」
気づいちゃったというように音也が充血してぷっくりと腫れ上がったピンク色の真珠のような輝きを持った突起を激しく擦り上げると春歌が「あああっ、あっ! きもち、いいです、音也くん……!」とさらにぎゅうぎゅうとナカを締めつけては鳴いた。
「あ~あ、すっごいヨダレが溢れてきちゃってるよ、イッちゃった?」
「わかんない……」
「わかんないの?」
そうなの、困ったねと音也は脱力して力が入らなくなって腰を動かす余裕がなくなっていた春歌のナカを音也が突きあげると「ひゃっあ!」とまたしても春歌が嬌声をあげた。
「ココ弄られて、ナカも突かれるとどう?」
「……ひぐっ……あうっ……あっ……」
「あー、春歌のナカ、ビクビクしてる~……イッてるね?」
今度は春歌自身もわかってるのだろう、こくこくと涙目になりながらも頷く姿を見て、音也は本当に春歌は可愛いなと思った。
「春歌、俺も、もうイキそ……」
だから、もっと腰を落としてというように音也がまたしても腰のくびれをぎゅっと掴んで彼女の奥まで、根元まで入るように押し込む。
「お、音也くん、だ、だめだよ……」
「何が? 何がだめ……」
「だって、だって、このままだと……」
「いいじゃん、どうせ夢だし……すげぇ気持ちいい~……春歌のナカに出させて」
夢の中でくらい好き放題させて? と音也が雑にねだると、それはだめです、とふるふる首を振って抵抗する春歌がたまらなく可愛い。
「そもそもえっちなことはじめたのは春歌じゃ~ん……」
俺の夢のはじまりの記憶は、すべて春歌からはじまったのだから、好きにさせろというように腰を打ち付けるスピードをあげると春歌が「だめっ、だめ、音也くんっ……」と半泣きの様子で訴える。
「だめっていうわりには、俺に合わせて腰振ってるじゃん?」
一緒に気持ちよくなろうとして、俺を吸い付くそうとしているのはだーれだと音也がニコニコ笑って尋ねると春歌は泣きそうな表情で「わたし」と短く答えた。
「せいかい。……春歌のナカに出したい、夢なんだしさあ」
「ゆ、ゆめ? お、おとやくん……これ、夢じゃないよ……」
「ええ~?」
何も聞こえないというように音也はごまかすように笑ってから、春歌を下から何度も突き上げてからあがる吐息混じりに「そろそろ射精そうっ……」と声をあげる。
「音也くん……音也くん……だめだよ」
「だからさあ、説得力がないんだよね。こんなにぎゅーって締め付けられてるのにダメっていわれるほうがよくわかんない」
本音と建前があるのだとして、矛盾してるんだよその全てが、と音也は自分の上に跨る彼女の背中に手を回して抱き寄せる。
ぎゅっと抱きしめると、春歌の耳が音也の口元まで寄ってくる。
その耳に囁くように「大好き」とそれだけは夢だろうが現実だろうが、共通している本当のことだからと伝えた瞬間にお互いの強張りが解けて蕩けて溶けて一つになっていく。
まるで彼女のナカに心臓を置き忘れていってしまったかのような、そんな感覚を音也は味わう。
ああ夢ってやつはこんなにも現実にしたいことを見せるんだな、なんてうつらうつらと考えていると、抱き寄せて胸に押し付けていた春歌の鋭い視線が確かに音也に向いている。
「……なに?」
「音也くん。ひどいです」
「ええ……なにが?」
「だめっていったのに」
どうして言うことを聞かないの? 遠い昔、誰かに言われたのかすら忘れたけれど、投げかけられたのだろう言葉を音也は思い出す。
できる限り人に合わせて生きてきたつもりだったけれど、目の前の女の子のことになると、どうしても我を忘れてしまう。
まるで自分が自分じゃなくなるみたいに。
大好きっていう気持ちの言葉はこんなにも出来てきて伝えているのに、どうしてこうなっちゃうのだろうっていう理由については言葉が足りなくて彼女のことを失望させてばかりだ。
彼女の唇が胸板に触れる。冷たいように見えて熱くて、「うわ」って声をあげると、その反応を見た春歌が唇の次には舌先を胸で隆起する筋肉の流れに這わせた。
「ちょっ……まっ……」
俺のこと、舐めてる?
それはちょっと待ってくれよと音也は思ったけれど春歌は止まらない。
やがて胸にある二つのうちの頂点に這わせてきた舌がたどり着いて、触れ合った瞬間にゾクゾクした感覚が身体全体に纏わりついていくのに音也は気付いた。
「あ……はる、はるか、待って、ほんとう、それは、むりかも」
「音也くんも無理なことがあるの?」
「あるよっ! あって当たり前だろ」
音也くんって何でもできちゃうんですね、と見て学べばすぐにそれなりにできてしまう音也に対してそんな感想をよく春歌は述べた。
その度にそうでもないけど、と音也は謙遜のつもりでもない、君の前ではかっこよくありたいと願うからなのに、こんなふうにだらしなくかっこ悪くなっちゃうこともたくさんあるのだと知られたくないようで、一方でそうした弱さすらも君にだけは知っておいてほしいと思うことがある。
春歌はそのことを理解しているのかいないのか、自分の恋人は、彼氏は、何でもやればできてしまうなんて幻想みたいなものを抱いている。
「……ここ、気持ちいい?」
いつになく優しい表情で聞かれて、音也はなんだか泣きそうになった。
「……気持ちいい……」
悔しくって、全然気持ちよくなんかないもんっていう言葉がでそうになってたのに、彼女の優しい舌の動きに負けてしまって素直な言葉が飛び出した。
ああ、これくらい素直に甘えて言葉を尽くすのなら、さっきみたいに一方的になることもないのかな。
気持ちいいという音也の感想を聞いた春歌は、よかったですと優しく微笑んで反応を見ながら何度も丁寧に舐めていく。
口に含んでころころと舌で転がしては「あっあっ」と声を出すことも厭わなくなった音也の反応を見ては愛おしそうに身体中を舐めていく。
「待って、春歌、俺、でちゃうかも」
「うん、いいよ」
「いいよじゃなくて!」
「いいよじゃなくて……?」
なあに、と春歌はわからないというように音也のことを上目遣いで眺めながら、何かを言いたげに困った視線を向けてくる音也と視線で会話を交わす。
「お、おれの、春歌がすごく気持ちよくしてくれたから、すごく元気なのわかるだろ」
「……うん」
「だから……挿れて……」
「挿れて欲しいの?」
そうなの? と小首を傾げる春歌に音也は挿れて欲しいの、と甘えた声を出す。
すると、どうしようかな……なんていう悩ましい声と一緒に、春歌の細くて白い指先が、つつーっと胸の谷間をなぞっていくのがわかる。
「なんで悩むの、さっきは挿れてくれたじゃん」
「でも音也くん、挿れるということ聞かないから」
むすっとした表情に変わった春歌を見て、音也はあわわと慌てる。さっきの出来事が蒸し返されている。
今の自分にもっと体力があったのなら、春歌のことを逆に押し倒して、責めて責めて自分から抱きにいくのに今日はやっぱり身体が疲れていて自由が効かない。
自由が効かないくせに下半身は自由すぎて、収まりがきかない。もう最悪だ。情けなくて恥ずかしいのに、目の前の大好きな彼女と一つになりたくてしかたない。
「ほんとにダメ?」
「……どうしようかなって」
こんなの生殺しだと音也はひたすらに春歌のことを見つめる。
「ゴムならこないだしたときにベッドサイドのところに置いていったやつあるよね」
「そういえば……」
余ったやつここに置いておくねーってお互いの了承をとった上で置いていったことを春歌はそのことを思い出す。
跨っていた音也の身体が降りて、すぐそばにあるベッドサイドの引き出しから、避妊具の袋を取り出して春歌が戻ってきた。
「取ってきてくれてありがと、じゃ着けるから」
早口でそう告げて、ちょーだいと音也が手を伸ばすと、春歌はとっさに手を握って避妊具を隠してしまう。
どうしてそんな行動をとるのか音也は理解ができなくて「ええ!?」と思わず大声をあげてしまった。
「……音也くんは信用できません」
「し……しんよう……?」
どういうこと? と思ってすぐに、中に出させてと夢うつつに迫ったことを思い出す。そして実際に中に出してしまった。
だからこそ疑われているのだと気づいて「や、だって、夢、」と言い訳をしようとしたあたりで春歌が「わたしが着けますから」と避妊具の袋を破った音がする。
少々お待ちくださいという声が聞こえてくる。箱ごと置いていったから、箱に入っていた説明書を持ってきて読んでいるようだった。
春歌が「なるほど……」という独り言を続けながら、急に実物に触れて実践しようとしたあたりで音也は「ひゃう!」という声をあげる。
「ひゃう?」
「だだだだだって急に触るんだもん! びっくりする!」
「し、しつれいしました……でも、触らないと着けれないよ」
「それはそうだけどぉ……」
なんか今すごく敏感すぎて、春歌に触られているという事実を認識した上で伝わってくる感覚に普段の何倍も過敏になっているのを音也は感じている。
春歌も緊張しているのか、おぼつかない手つきで触れているのが肌を通じて音也にもわかる。
そうした空気に張り付いた緊張の中で、ついに先端にゴムが被されたのが伝わってくる。
なんか今日は春歌にあれこれしてもらってばかりだな……とぼんやりとそんなことを考えつつも音也は身体全体の力を抜いて、もはや身を任せっぱなしだ。
まるでお風呂に入って身体の力を抜いて、無駄に浮かんでいるそんな感じだ。
こう……という春歌の小声にあわせて、くるくると巻かれるようにかぶさっていく動作ですらも音也にとっては気持ちいい。
あぁ……と音也が身体を震わせていると、春歌がおそるおそると尋ねる。
「音也くん……もしかして、でちゃいましたか?」
「はっ?」
「だって、なんか、ぬるぬるとしてるのがたくさん出てます……」
ほら、ゴムの中……と春歌が局部を握りしめて上下に擦って濡れているということをアピールしてくるけれど、それはもう音也にとって拷問だ。
「ちがっ……まだ射精てないから……! それ、我慢できないとでちゃうやつ!」
「が、がまん……?」
「言わなくていいし、春歌は知らなくていいの……」
もぉぉぉと音也が顔を真っ赤にしながら、そんなことより挿れてと息を荒げながらもねだると、春歌はまだダメですというように首を振ってイヤイヤする。
「な、なんでっ? ゴムもしたのに?」
「……なんか、ヤ」
……なんか、ヤ!?
なんか、ヤ!? って何!?
こんなあやふやでアバウトな理由で行為を拒否されたのが信じられなくて、びっくりするけれど、自分はもう気分が盛り上がってしまってすぐにしたいしたいの気分でいるけれど、春歌にしてみれば気分がまだ乗っていないのだということは冷静にになってみるとわかる。
それこそまた、普段の体力のある自分だったら彼女がそうした気分になれるように身体を解してあげるのにと音也は思うのに、もうだめだ。
身体はやっぱり、言うことをきかない。
「……すこし、ぎゅってしていい?」
「? ……うん」
再び音也の上に跨るようにしていた春歌が、体重を預けるようにして音也に覆いかぶさっていく。
胸と胸、お腹とお腹、身体の先から足の先までがなんとなくでも触れ合って、なんだかとっても気持ちいい。
どこか遠慮している様子の彼女を見て「もっと体重かけていいよ」と音也が促すと、春歌がうん……と頷いてさらにぎゅーっとしがみついてくる。
「どーしたどーした……」
はは、となんとなく乾いた笑いが音也は出てしまった。
こんなふうにただひたすらに抱きしめられるなんてことがなくって困っちゃうなと戸惑いながらでも彼女のことを抱き寄せる。
目と目があって、何となくキスをした。
自然に。当たり前のように。唇と唇が触れあって重なって、音也が舌を絡めると最初は消極的だった彼女も同じように舌を動かして互いをしゃぶり尽くすような口づけに変わっていく。
彼女の体重がかかって、さらに身体は重くなるはずなのに、腰は疼いて本能で彼女の入口を求めてしまう。
筆先で撫でるような動きで彼女の入口をつんつんと刺激すると、びくっとした春歌が口を離して「ひゃっ」と声をあげた。
「……まだ、だめ?」
「だめ……」
「春歌のいじわる」
挿れたい挿れたいと彼女の耳元で何度も囁くとびくびく春歌の身体が震えてるのが音也にも伝わってくる。
「そろそろ春歌も欲しくてたまんないって顔してる」
えっちな顔になってきたね? と音也が春歌の頬を撫でる。ぷにぷにしてやわらかい。火照ってほんのり赤く染められたほっぺは何度撫でても愛しくなって撫で足りない。
音也が伸ばした手の親指が春歌の唇に触れたと思ったら、なぜか春歌が親指にしゃぶりついてくる。
「こら、そんなところ舐めない」
なんでそんなことすんの、と普段の彼女から想像できない行動に、んんーと音也は考え込む。
「俺の親指しゃぶるくらいなら、さっきみたいにここ舐めて?」
ここ、と音也がつんつんと自分の乳首を指さしたのを見て、春歌は「そこ?」と口に含んでいた親指を離して、もう一度というように指さされた箇所を口に含む。
「あぁやっぱ俺、だめかも……」
なんだろすげぇ気持ちいいという素直な感想を口にすると、春歌が放り込んでいたものを放り出す。
もっと舐めて、なんて促そうとした瞬間に、興奮から反り立っていたはずの箇所にごりごりと柔らかいものが当たって、急に生ぬるくなったのを感じて音也はたじろぐ。
「まま、待って、急に、挿れ、」
確かにおねだりしたのは俺だけれど、それでもこんな、急に、ダメだよと音也が途切れ途切れのうめき声をあげていると、今度はまた乳首のあたりをしゃぶられはじめる。
「挿れながらっ……舐めっ……」
ちょっとタンマと止めたくなるのと、止まらないでほしいと願うのと、音也にとってどちらに天秤が傾いているのかわからない。
本当に止めてしてしまっていいのか、このまま続けてもらっていいのか。
激しく擦りあげられていくのと、生ぬるい舌が肌を這っては突起に吸い付いてしゃぶりあげられる。
「はる、春歌……」
今日の俺の彼女は、いつもと全然違う。
今になってようやく音也は理解する。俺はもしかすると、春歌のことを怒らせてしまったのかもしれない……?
「ま、待って、やっぱタンマ……! き、気持ち良すぎてやばいっ……」
腰が、お尻が、何かもがぎゅっと縛って絞りあげて、全部吸いつくされてしまいそうだ。
普段は音也が激しく動いて気持ちよくなるのに、無抵抗のまま、春歌だけの動きでこんなに感じてしまうなんて何も信じられない。
タンマという言葉も、その意味も聞こえているはずなのに、春歌は腰の動きも止めずに口から離した音也の乳首を指先で弄ぶようにいじっている。
「こら、つまんじゃだめ、つまんじゃ……! うわ、もう、俺、出てる……あぁ……」
最悪だぁ~……というように情けない音也の声とナカでの動きを察した春歌が腰をあげると、さすがに今日すべての残弾を使い果たしたのかぐんにゃりと局部が首をもたげていった。
「音也くん、本当に胸が弱いんだね……?」
「おおお、俺だって今日初めて知った! 自分で胸なんかいじんないし!」
はあはあと肩で息をしていた音也があらためて弱点を口にされて不満気に反応する。
「そうだよね……音也くんはいつも、わたしのばかり触って舐めて、好き放題だもんね……」
「ほあぁ……な、何、春歌、怒ってるの?」
「怒ってます」
少し軽蔑した目で音也のことを見下ろしていた春歌の琥珀色の瞳がきゅっと開いて閉じる。
「こんなに目のクマたくさんくっきりつけて」
音也の目の下あたりに手を伸ばすと、愛おしそうに触れながら、泣きそうな声で震えながら春歌がぽつりぽつりと呟く。
「すぐに眠っちゃうくらいに、すごく疲れてるのに真っ直ぐ、わたしに会いにきて……」
どうして? というように戸惑ったように春歌は撫でていた音也の頬から手を離して、彼の赤毛を指の隙間に櫛のように絡ませながら撫ぜていく。
「疲れてるのにえっちなことしようってする音也くんのこと、怒ってるけど、大好きです」
本当に、どうしてなんだろう?
本当は今すぐにでも休んでほしいし、自分のことなんか構ってくれている場合じゃないって思うのに、こうして会いにきてくれるあなたのことがたまらなく大好きなんですと何が正解なのかわからないというように春歌がぎこちなく笑う。
「春歌……」
「無理ばっかりする音也くんのこと、今夜は許しません」
「へっ。あううう!」
きゅっとまたしても指先だけで摘まれたのだと気づいて音也が声をあげる。
「もう夢じゃないってわかってますよね?」
これだけ言葉でも身体でも伝えたのだから、わかるでしょう? と尋ねられて、音也はただコクコクコクと無言で頷いた。
「夢じゃないってわかるなら、ちゃんとごめんなさいして」
「……はいっ。ごめんなさい……」
「ダメっていったらダメです」
「……むつかしい……春歌は気持ちいいときもオッケーなときでもダメっていう……」
「音也くん」
「はいっ……ごめんなさい」
「疲れてる時はまっすぐおうちにかえってゆっくり寝てください」
「やだ」
先ほどまでは素直だったはずの音也が、上に跨ったままの春歌のことをぎゅっと抱き寄せる。
今夜は本当に疲れているのかほぼ無抵抗だった音也のいつもの力強さが戻ってきたことを悟って春歌は「もお!」と声をあげるけれど、音也は春歌のことを胸に抱きしめながら「やだやだやだやだ」と彼女の耳元で連呼する。
「音也くんは、我儘です~~~……!!」
「無理矢理しちゃうのは悪いってわかるけど、疲れている時に一番会いたいのが春歌なの!」
「どうして、無理しちゃだめ、」
「それくらいわかってよ!!!」
自分がいかに我儘なことをいっているのかなんてとっくのとうに理解しているけれど、疲れた時に会いたくなる俺の気持ちもわかってよと普段であれば優しい口調で伝える音也が叫んだのにあわせて驚いた春歌が身体を跳ねさせる。
「それくらい……それくらいわかってよ、俺、間違えたらいつだってごめんなさいって、何度でも謝るから」
「音也くん」
「それくらいわかってよ……!」
わかってほしいと押し付けるのに、わかんなくてもいいみたいに音也は何度も叫んだ。
わかってくれなくていい。それでも会いにいってしまうのが俺なんだって、それくらいわかっていてよ。
本当に我儘なことをいっているとわかるから、わからなくていいと投げやりにでも叫び続ける音也の気持ちをただ、彼が疲れて眠るまで春歌は聞き続けた。

たかさか
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