SIDE:HARUKA
今日の夜、練習で遅くなるといっていたはずのトモちゃんは予定していた時間よりも早く戻ってきてくれた気がする。
トモちゃんに相談するまでの間、どうにか今日起きた出来事を整理してみるけれど、あまりよい結論は浮かばなかった。
「ただい……まー! ってアンタ、泣いて!? 泣いてる!?」
「泣いて? 泣いてないけど……」
「あーあー、もうわかった! 今あったかいもん淹れるから、はいこれティッシュ!」
トモちゃんは部屋のテーブルにあって手が届かない位置にあったティッシュをぽんっと自分がいるベッドの上まで放り投げてくれた。
ティッシュを使わなければならないくらいにダメな顔になっていたことは、一枚引き抜いたティッシュに顔を当ててみて自分でも気づいた。
ティッシュの先に目先のあたりを拭っていると、キッチンから二つマグカップを持ってトモちゃんが部屋にでてきた。
「はいこれ。ホットミルク。寝る前に飲むと寝付きがよくなるんだって」
「ありがとう……」
「それで? 相談したいことって? あ、音也とケンカした?」
「ケンカといいますか、それ以前といいますか……」
「なあに、あんたたち仲良いからさー実際ケンカなんかしたとか思ってはないんだけど」
トモちゃんが今日着ていた制服をてきぱきと脱いで、ハンガーにかけ、埃を払ったりと普段の行動を取りながらもしっかりわたしの話を聞いてくれようとしてくれる。
「あのね……」
わたしが相談しようとしたことをようやく頭の中でまとめて口にしたときにはもう、トモちゃんは部屋着で寝る準備ができている様子だった。
「ほんで、何?」
「一十木くんが今日は全然目をあわせてくれなくて」
「ほーほー」
「話しかけてくれるのかな? と思ったらあっちむいてどっかいってしまって」
「ふんふん」
「ようやく勇気を出して練習しませんか、って声かけたら」
「おお!」
「聞こえてなかったみたいで翔くんとサッカーにいってしまいました……」
「あちゃぁ……バカ……」
「そ、そうだよね! もう一回勇気だして声かけたほうがよかったよね」
「え? あぁ、違う違う。バカっていったのは音也に対して……あいつさ、ときどきあぁなのよね」
「時々?」
まあ、当人同士は気づかんか! とトモちゃんはいつものように笑って、わたしの背中をさすりながら「気にしない気にしない、一種の病気みたいなもんだし」とアドバイス? を続けてくれる。
「病気なんですか一十木くん!?」
「え、あぁ、そうよそうなのよー。でもあんたもこの病気がなんなのか自覚すると思うわよ」
「そんな……やっぱり一十木くん、わたしとのパートナーがそんなに嫌で……」
「は……? いやいや、そういうことじゃなくて……」
「だって目も合わせてくれないし、声かけても気づいてくれないし。なのに他のコとは普通に喋ってて。わ、わたしとは今日一言も……!」
一気に息を吐くように続けて、トモちゃんの表情が……、どこか嬉しそうというかニヤニヤしていることに気づいて「何……?」と訴えることをやめる。
「いやはや青春ですなぁ。もう春歌ってばすぐ音也音也音也音也音也ってさぁ」
「そんな! だってパートナーだもん。曲作らなきゃだしそれに!」
「それに?」
「それにやっぱり一日、何も話さないなんて寂しいです……」
「はぁ!」
今日一番、ひときわ大きいトモちゃんのため息を最後に聞いて、夜は更けていくのだった。