AIと音春を書いてみた

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導入部分と、ストーリーが破滅しかけた際の軌道修正部分はたかさかが書いています。 あとはAIくんがそうしたいと考えて書いているので春歌ちゃんも音也くんもそんなこと言わんだろストーリーになっていますが、そういう破滅AIものがたりをお楽しみいただける方のみ、読んでください。

季節が熱い夏と寒い冬を繰り返す中で、比較的過ごしやすい時期が中間におとずれる時がある。

普段の何気ない服装でも、暑さも寒さも感じることなく、ただ風を気持ちよく感じるこうした気温がありがたい。

もちろん夏がきた、と感じるようなうだるような暑さだって、冬がきたと思わせるくらいの刺すような冷たさだって、四季を感じれることの喜びは生を感じるようで、変わらず過ごす毎日への変化を感じるようで好きだった。

七海春歌はそんなことを何となく考えながら、耳にいれたイヤホンのズレを片手で直しつつ訪れたカフェスペースの窓から外を見る。

今日は本当に過ごしやすい。春が終わり夏がくるまでの中間点。そろそろ衣替えも必要だろうか、何て幾度なく悩むけれども春服でも暑さも寒さも感じずに過ごせるこの季節の柔らかさがやはり好きだ。

そうなると今広げている五線譜に書き込む音符もどこか爽やかさなメロディに変わってくる。

本当は家でピアノを弾きながら作曲した方が早いのはわかっていたけれど、今日は気分転換であまり頻繁には訪れないけれどたまにはくるカフェスペースで静かに作曲を続けていた。

最近はスマートフォンに入っているアプリでそれなりに作曲ができるらしいという噂を聞いて春歌はそのアプリをダウンロードしてみた。

アプリ上ですべて完結出来るという話だけれど、操作方法があまりわからず「?」「?」と疑問符を頭に浮かべているうちに、そうだ、音を鳴らしながら手元で譜面を書いていけばいいのだとそんなことに気づいた。

結局それが最近の作曲スタイルなのか今まで通りなのかはわからずとも、春歌にとっては今までにない作曲スタイルで、違う環境に身を起きながら作曲できるというのはどことなく楽しかった。

「♪、♪♪」

眼の前の窓から見る木々の揺れ、人々が歩いてすれ違っていく様子。たまに止まる車に変わる信号で流れる人。

変わらぬ日常が窓の向こうには続いていて、一方でこちら側での春歌にとっての変わらぬ作曲との日常は続いている。

タン、タンとリズムよくアプリで音を奏でながら、春歌はう~ん、と空を仰いで悩みつつも、「あ、」と声を小さく出しながら手元の五線譜に一つずつ書き込んでいく。

カフェで頼んでいた紅茶に口をつけると、わずかに冷めてきていてあと一口で飲みきりそうだな、ソーサーにもう一度戻そうとしたところで、自分の隣に人がいることに気づいて、その人が誰かがすぐにわかってしまった。

「音也くんっ」

「や、バレちゃった」

ふりふり、と手を振って照れくさそうにしているのは一十木音也だ。黒縁メガネに帽子を深く被って、いつから春歌の隣にいたのだろう、バレてしまったというからにはしばらくの間はそばにいたのだろうと思わせる。

「いつからそばに?」

まったく気づいていなかったことへの申し訳無さと恥ずかしさ、その両方なのだろう春歌は挙動不審になりながらも音也に尋ねると、音也はいつからだろ? と自分自身もわかんないやというように笑って、

「結構ながーく君のこと見てたよ」

と、笑った。

「何で声かけてくれなかったの?」

「春歌、すっごい集中してたから。声かけたら悪いかなあっと」

「確かに、今日は調子よかったから、集中してて気づかなかったけど」

「いや~よかった。永遠に見ていられるね。俺、春歌のそういう横顔が好きなんだ」

頬杖をつきながら、こちらをまたジッと眺める音也からの視線を逸して、春歌は鳴らしていたアプリの音を止めてイヤホンを耳から抜こうとする。「あの、私もう帰るので……

「えぇ!? 帰っちゃうの!? まだ全然喋ってないんだけど!」

「でも……見られてると思うとなんか緊張しちゃって」

「大丈夫! 俺は気にしないよ! むしろ君を見てるだけで幸せになれるんだから!!」

ガシッと両手を掴まれ、真剣な表情でまっすぐに見つめてくる瞳。

こういう時の彼は本当にかっこよくて、ドキッとする。

それにいつもならこんな風に外で話しかけてきたりなんてしないのに、今日はどうしてなのか、少しだけ不思議にも思った。

「ねえ、春歌って今作曲中だよね」

「うん。作曲の気分転換にカフェにきたの。でもやっぱり家の方が集中できるかもって思って帰ろうとしてたところだよ」

「そっかぁ……。じゃあさ、ちょっと待っててくれる? すぐ戻るから」

言うなり音也は勢いよく立ち上がり、そのままどこかへ走って行ってしまう。

春歌は突然のことにポカンとしたけれど、とりあえず彼が戻ってくるまで待つことにした。

それからしばらくすると、バタバタと戻ってきた音也は、手に持っていたものを春歌に渡す。

それは楽譜だった。

「これ、今度出す新曲なんだけどさ、春歌に一番に聴いてほしかったんだ」

「え、いいの?」

「もちろん。春歌に一番に聴かせたかったんだよ。だから、はい。お誕生日プレゼント。受け取ってくれる?」

「嬉しいです。ありがとうございます。……でも、何でわざわざカフェに来て?」

「だって春歌がせっかく作曲してるとこ邪魔したらいけないと思って。でも、作曲してる春歌も好きだけど、作曲してない春歌も好きだから、こうやって話せる機会があればって。まあ、作曲してる春歌も好きっていうのもあるんだけど。とにかく、俺が一番最初に春歌にこの歌を聴いてほしいと思ったから」

「ありがとう。すごくうれしい。この曲も歌詞も、音也くんの想いが詰まってるんだなって伝わってきました。音也くんの気持ち、ちゃんと受け取りますね」

受け取った譜面に目を落とすと、そこには手書きで曲のタイトルが記されていて、それを見た瞬間に春歌はハッとした。

「あ、れ……?」

「どうしたの、春歌」

「いえ、何でもないんです。ただ、このタイトルが、何となくわたしの曲と似ているような気がして」

「ああ、そういえばそんなこと前に言ってたっけ。偶然だね。俺もそのタイトルにしようと思ってたから。俺たちって案外似てるのかも」

「そうですね。ふふっ」

「じゃあ、早速聴いてみてよ」

音也が促すと、春歌はこくりと小さくうなずいて、再生ボタンをタップする。

そして流れ出したイントロを聴いた春歌は、息を呑む。

「これは……、」

「驚いた?……実はさ、春歌に渡そうとしていた曲と対になってるんだ。俺と君の歌。『君のうた』って名前にした。春歌はもう気づいているかもしれないけど、このタイトルは、君のことをイメージしてつけたんだ。それで、この曲を二人で作れたら、どんなに幸せだろうって、そう思った」

「私のことを……?」

「うん。君は俺にとって特別な女の子だから」

……っ」

「あれ、照れてる?」

「ち、違います! その、何て言ったらいいか……、言葉が出てこなくて」

……ねえ、春歌」

「はい」

「俺、春歌のこと、大好きだよ」

真っ直ぐに向けられる視線に、春歌は思わず目を逸らしてしまう。

今までに何度も言われた言葉なのに、なぜか今日の音也の言葉は春歌の心に刺さった。

それは、まるで春歌の心の奥底にある何かに触れられたような感覚で。

「わ、私も、」

「ん?」

……私も、音也くんのことが、好きです」

「ほんと!? やった! 両思いだ!」

嬉しそうな声を上げて、音也はそのまま春歌を抱きしめる。急に距離が近くなったことで春歌の心臓はバクバクと大きな音をたてていたけれど、不思議とその温もりはとても心地よかった。

「あの、音也くん」

「なに?」

「えっと……

春歌は少しだけ躊躇いながら、自分の首に回された彼の腕をぎゅっと握って、言う。

「キス、しませんか?」

……へ?」

「き、聞こえませんでした? もう一度言いますから今度はちゃんと聞いててくださいね。―――音也くん、わたしと、キス、してくれますか?」

春歌は耳まで真っ赤になりながら、それでもしっかりと音也の目を見つめて問いかけた。

すると、彼は少しの間ぽかんとしていたけれど、すぐに我に返って口を開く。

「春歌、俺の話ちゃんと聞いてた? 俺たち付き合ってないよ?」

「はい。わかってます。でも、わたしたちならきっと大丈夫です。それに、今日はわたしの誕生日なので、わがままを聞いてくれたりとか……しないでしょうか?」

……いいよ」

「え?」

「春歌からのお願いだからね。叶えてあげる」

「ほ、本当にいいんですか?」

まさか了承されると思っていなかった春歌は、自分で提案しておきながらも驚いていた。

すると音也は自分の唇に人差し指を当ててから、悪戯っぽく笑う。

「ただし、ひとつ条件があるんだけど」

「じょ、条件ですか? 一体どんな……?」

「俺と恋人同士になるっていうのが条件。春歌が俺の恋人になってくれるなら、俺は春歌のお願い、何でも聞くよ」

「そ、そんなのでいいんだったら、もちろんです。……あ、でも、今すぐというわけにはいきませんが、」

「なんで?」

「だって、音也くんはアイドルだし、それに、まだお付き合いしている人もいないって聞いたので」

「そうだね。まあ、それは追々考えればいいんじゃない? とりあえず今は、春歌の願いを叶えたいからさ」そう言って音也が優しく微笑むものだから、つられて春歌も笑顔になった。

「ありがとうございます。では、よろしくお願いしますね」

「うん。こちらこそよろしく」

それから二人は顔を寄せ合い、どちらからともなく唇を重ねた。

初めてのキスは、とても甘く、幸せな味がした。