この感情は何なんでしょう?

  • おそらく数年前にぷらいべったーで公開していた音春のメモリアル風のなにか?の再録です

    な~んてことはな~い なんてことのな~い 学生時代のただの~おとはる~です!

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SIDE:OTOYA

「はぁ」

「うるさいため息ですね。口をつぐむという行為はあなた、できないんですか? 鼻が詰まっているんですが? 鼻詰まりのせいで口呼吸になってるんですか?」

「うわ、ちょ、な、何っ、トキヤ急に、顔こわ、なんで怒ってるの?」

「怒ってます。ええ、あなたのせいで。さっきからあなたがついたため息の回数を数えるくらいには」

「え。ため息」

「おまけに自覚がない。いいでしょう聞きましょう、あなたのそのため息の原因はなんですか? すべて吐いてしまえばそのくだらないため息もつかなくなるのでは?」

 ベッドの上で天井を見ていたはずなのに、俺の視界はトキヤでいっぱいだった。

 トキヤは課題をするから静かにするように、と俺に言い含めた後、机に向かっていたはずなんだけど。

 それにしても俺に対して無関心のトキヤが逆に詰め寄るぐらいに気になるくらいに俺、ため息をついてたってことだよな。

 原因は一つしかないけれど……。

「トキヤって人に話しかけるときに、……こう胸がきゅ~って。ドキドキしちゃうことってある?」

「何です? また怒られるようなことをして、それを自白するのができなくて悩んでるんですか?」

「もー、違う! そうじゃない!」

「あなたは誰にだって平気で話しかけるじゃないですか。それこそ初対面じゃないかのように」

「う、うん、そうだけどさ。一人だけ。どーしてもうまく話しかけられなくなっちゃうコがいて……」

「ほう。珍しいですね、あなたにも苦手とする人がいるんですか?」

「苦手ぇ!? いや違う違う、むしろすげー興味あるよ! 今日は何の話しよっかなとか、好きな食べ物何かな? 飲み物は何かな? 何をプレゼントしたら喜ぶかな~とか、いろいろ!」

 俺の反応を見て、全く納得できないというように、再度トキヤの眉のシワが深く刻まれていくのがわかった。

 そんな難しい顔をしているつもりのはずもないのに、あのクールなトキヤをこんなに困惑させることができるのって、ある意味で俺もすごいのかもしんないとか思ってしまう。

「あなたの話を統合すると。『苦手ではない』『嫌いでもない』『むしろ毎日話したい』『でもどうしても話しかけられなくなる時がある』……という感じでしょうか」

「うん! すげートキヤ、俺が悩んでること全部わかってるじゃん!」

「とっちらかったあなたの話をまとめただけですけどね……。話しかけられなくなる時。これはどうしてですか?」

「ど、どうしてって言われても……」

 思えばこんな風にきちんと誰かに悩みを相談するのって初めてなのかもしれない。

 どこか自分ひとりで答えは出せるという独りよがりな自分がいた気がする。

 でもそれはどっちかというと、悩みを聞いてくれてるトキヤ自身もそう思ってそうなのに。

 この部屋に二人で住んでるだけで色んなことがあるよなってちょっと笑ってしまう。

「笑っている場合ですか」

 トキヤは俺が心配だ、とかそういうのよりも俺が無意識に何回もため息をつくのが嫌なだけなんだった。

 そうだとわかっても、こうして話を聞いてくれる人がいるっていうのはありがたいことだよね、と思いながらその問いに答える。

「うーん、怖いっていうか。たくさん話したいし、その人のことを知りたいのに、もし本当は聞いてほしくないこともあったのに聞いたりして、嫌われちゃったらどうしよう、とか……」

「あなた普段そういうこと考えて人に話しかけてます……?」

「いや全然? なんか話したいなーと思ったら話しちゃうし」

 言われてみればそうだ。

 嫌われるとか、好かれるとか全然そんなこと意識したことなかった。

 誰かに嫌われてしまう恐怖、というのはどこか潜在的に感じながら生きてきたけれど、そうならないようにというか、あまり自分との接触を嫌がる人自体をあまり自覚したことがなかった。

 ……あぁ、でも今話してるトキヤはわかりやすく目の前で苛々するし、嫌がってるってわかるけど、トキヤに対しては嫌われるかもしんないという恐怖はどこかあってもなんか大丈夫だろうっていう不思議な感覚がある。何だろうな……、この違い……。

「急に考え込んで無言にならないでくださいよ」

「わ、ごめん。つい考え込んじゃった」

「いえ別に……それで。どうしたいとかあるんですか?」

「今日さー、彼女が話しかけてきてくれてることわかってたんだけど……わかってたのに、無視しちゃったっていうか、聞こえないフリしちゃったんだ……」

「話しかけられて無視とは……、あなたらしからぬ意味不明な行動ですね」

「だろ!? 俺……誰にだって話しかけられたらちゃんと返事するのに! なのにも~、すげードキドキしちゃってこのまま話したらなんかこう手ぇ出ちゃう気がしてさあ」

「手!?」

「手っていうか、キスしたいっていうのかな」

「キス!?」

「この子とキスしたらどうなるんだろう? 俺、もっとこの子のことが好きになっちゃうんじゃないかなとかそういう……ね…トキヤ、何、すげー怖い顔してる」

「確かにそれならあなたは彼女に話しかけない方がよいでしょうね。私からも彼女の方に音也には気をつけるようにキツく言い含めるようにしましょう」

「は? やめてやめて、すっげー我慢してんだからさ! 我慢終わったらちゃんとしっかり話すし……嫌われたくないために努力してんのにさ、嫌われるよーなことをトキヤから七海にいうのはやめてって、ってかなんで七海の話してるってわかるのー!」

「わかりますよ、わかるに決まってるでしょう! あなたは四六時中、七海さんの話しかしないんですから!」

「俺、そんなに七海についての話してる!?」

 もちろん七海のことを考えない日はなかったけれど、トキヤに対してそんなに七海の話をたくさんしてるという自覚がどこにもなくって、こんな風にあらためて面と向かって言われるとめちゃくちゃ恥ずかしくなる。もう顔から火が吹き出そうだ。

「ルームメイトが不祥事を起こすというのはやはり私にも影響がありますからね……」

「うわ、まじやめろって本当に、絶対にやめてよ、トキヤに相談するんじゃなかった!!」

 マジ信じらんね〜!! と叫びつつ頭が痛そうなトキヤの背中を追い回して「それだけはやめて」というだけで今日の夜は更けていきそうだった。

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