ときめき

  • pixivでシリーズとして公開していた「ときめき」の再録です。

    改行がうまくいかなくて読みづらくてすみません……

    時空としてはマジLOVEシリーズ軸のマジレボ嶺二回で音也くんが春歌ちゃんが遅くに帰ってきたのをみて(むむう!?)みたいな表情で見ていたのが印象的だったので、そのときの感情のまま突き進み、知らずしらずにときめきがはみ出ている一十木音也くんが怒涛にお誘いして……な音春のお話です。
    (どんな時空)

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#1 嫌われるのはイヤだな

 タイミングが悪かったのかな、と音也は考える。

 もしかしたら、忙しい時期なのかもしれない、とも考えた。

 だって、誘ったら一瞬嬉しそうな表情をして君は笑うんだ。

 だから、嫌がっているわけじゃないとは思うんだけど、と腕を組んでから目をつむり、うーんとわかりやすく唸ってみる。

「おとやーん、次の仕事まで空き時間あるよね?」

 シャイニング事務所で次のスケジュールを確認しようとやってきた音也に向けて、たまたま通りがかったというように寿嶺二が声をかけながらも、一十木音也の肩をぽんぽんと叩いた。

「れいちゃん。うん、あるよっ」

「だよねだよねっ。じゃー、そこの会議室で十分くらい話さない? れいちゃんから後輩にむけて特別指導ありまーす」

「特別指導……? 俺、なんかやらかした……?」

 思い当たる節、というのを音也は考える。

 最近の仕事のことだ。

 嶺二とは一緒の仕事はもちろん多いけれど、嶺二の場合、共演している仕事以外もきちんとチェックしていることが多い。

 こうした方がいいよ、という行き詰まっていた部分をすぐに見抜いてアドバイスをくれる嶺二は、音也にとって本当に頼もしくて気さくな、いい先輩だった。

 はいはいこっち、と誘導されながら会議室の一室に通されて、音也はドキドキする。

 思い当たるところがあれば、ついでに相談もしてしまえ、と思うけれど、今回は思い当たるところがない。

 それくらい自分自身、今の仕事に自信があって、うまくやれている自覚があったからだ。

 おまけにこんな風に嶺二に呼び出されてまで、何かを言われるという経験が今までなかった。

 仕事終わりの打ち上げ中や、リラックスした緊張感のない状況で、少し厳しいと思えることも含めて嶺二は伝えてくれることが多い。

 だからこそ、あえてこうして場所を変えて呼び出されていることがわかっている状況下での後輩に向けての特別指導と言われれば、少し緊張してしまうのも無理はない。

「あー、おとやん、何言われるかわかんなくて怖いって顔してる」

 ふっふっふ、と、おとやんの考えることなんて全部お見通しだぞ、と目の前にいる嶺二は普段と変わらずに笑った。

 まあ座りなさいな、と会議室にいくつかある椅子の一つに目配せをした嶺二の視線に従って音也は腰かける。

 音也が座ったのを見て、嶺二も、うんと頷いてから座った。

「おとやんの場合は回りくどい言い方しても、伝わんないと思うからはっきり言うね」

 怒ってはいない、というのをわかりやすくするためなのか、寿嶺二はいつもよりも目尻を下げて微笑んでるようにも見えた。

 しかし音也にとってはその表情すら不可解に見えてくる。

「おとやん、後輩ちゃんのことを誘いすぎ」

「はっ……えっ? 後輩ちゃん……?」

「あぁ。ほら、おとやんの同期で作曲家の……七海春歌ちゃんで~す」

 そうか、後輩っていっても、ぼくちん後輩たくさんいるもんね~、と嶺二は音也の反応を見て、名前を思い出す仕草を見せてから告げた。

「七海のこと……誘いすぎ……? ってなんでれいちゃん知ってるのっ!」

「ぼかぁねえ、おとやんのそういう隠せない正直なところ、好きだよ。純真っていうのかな、純朴っていうのかな。大事にしなきゃって思う」

 うんうん、と嶺二がしみじみと頷いたのを見て、その意味を悟って音也は気づく。

 こんな風に反応したら、それこそ彼女のことを誘っているということがバレバレになるというのに嶺二の話で気づいたからだ。

「……そ、そんな誘ってないと思うんだけど……」

 誘って、OKをもらっているならまだマシだ、と音也は口を膨らませて不満そうに嶺二から目をそらした。

 誘って、OKをもらってすらいないんだから別にいいだろ、と本人からお断りされているという事実すらも知られているのかと思うと恥ずかしくて唇を尖らせて文句の一つも言いたくなる。

「そんなに誘ってない~? おとやん、後輩ちゃんにどんだけ声かけてると思ってんだよぉ~」

 うりうり~とそばに寄ってきた嶺二に肩を小突かれて、音也は「マジでそんな誘ってないってばっ!」と必死に言い繕う。

 ……でも、実際、あらためてここ一ヶ月の出来事を思えば、そうなのかもしれないという自覚が音也にも芽生えてきた。

 二週間くらい前に、久しぶりに事務所で一緒になったから休憩がてらになんとなく、いや、故意的に、意図的に、意識して七海のことを誘った。

 でも予定があると言われて、じゃあまた今度って話になったから、その三日後くらいにまた事務所で一緒になったから、この日はどうかな、って違う場所、違う時間に誘ってみたら、それもなんだか有耶無耶で予定が決まらなくて。

 一週間前くらいにも、事務所に顔を見せていた七海がいたから、ラッキーと思って駆け寄って予定どうなってる? って食い気味に聞いちゃったのは何か悪かったな、とは思っている。

 でも、その時だって、少し先の予定を聞いたにも関わらず、断られちゃって、あ~、次はどうする、って今度もし会えたら誘おうと思っていたのは事実だ。

 それがこうして嶺二に呼び出されて、「彼女のことを、誘いすぎ」と明らかに怒られていることがわかる現実に音也は、呻くしかない。

「……七海、誘うのもうやめた方がいいってこと……?」

 聞きたくなかったけど、こんな風に呼び出されてまで言われることなんて大体予想がつく。

 すると、嶺二は呆れたように笑って「まぁ、そんなとこ」と頷いた。

「後輩ちゃんには断るように僕から言ったし」

 まぁ、そうだよね、しつこく誘われたら嫌かもだし……、俺も嫌われちゃったら嫌だし……、と納得しかけたあたりで、断るように!? とそうした指示が嶺二から出ていたことを知った音也は嶺二の方へと振り返ってすぐに「なんで!?」と問い詰める。

「そら、事務所でそんなあからさまなデートに誘われていいですねーなんてOKしてたらおかしいでしょうが」

「あっ」

「これはね、事務所スタッフさんからの苦言でもあるわけ。一十木くんは七海さんへの好意があからさますぎるので、どうにかしておいた方がいいですよーっていうありがたいご忠告」

「ああう、あうぅ~……」

 あからさますぎる、といわれて言いよどむ。

 そんなわけじゃないじゃん、とか、そういうつもりなんかじゃない、と否定すらできない自分の気持ちにも気づいてしまって、へなへなに落ち込む。

「まず、おとやんは誘う場所が悪い。そして声が大きすぎる、さらには相手を誘う場所もハードル高すぎ」

「……はい……」

 その通りです、というようにしょんぼりとして小さくなる音也に向かって嶺二は続ける。

「気になる女の子をスマートに誘いたいなら、誰もいない場所で二人きりの時だったり、聞かれないように配慮して相手が答えだしやすくしなきゃだね」

「な、なるほどっ~!」

「場所もいきなりデートだ~! って意識させるようなところにしたら相手も気負っちゃうでしょーが。できたらまずは二人でいっても気軽な場所にお茶飲みに行くとかにしたら?」

「そ、そうするっ~!」

「素直でよろしいっ」 

 うん、と嶺二がにっこり笑って「じゃあ行きますか」と立ち上がる。

 その様子を見て、音也は首を傾げつつ「あれ。もうおしまい?」とまだまだ怒られる準備はできていたのに、というように立ち上がった嶺二を見上げた。

「おしまいおしまい、会議室、次の予約入ってるも~ん」

 おとやんも立ちなさい、と促されてもうおしまいなのかー、と音也も椅子から立ち上がって先に会議室の入り口に立っていた嶺二に続く。

 不完全燃焼気味で近づいてきた音也を嶺二は抱き寄せると音也は「うわあ~、もお、れいちゃん何ー!?」とびっくりしながら反応した。

 その音也の頬にむけてグリグリと拳を当てながら、「おとやんはダメー! っていったら燃えるタイプでしょ」と耳元で囁いた。

「……うーん、そうかもっ」

「なんでダメかっていうのはちゃんと理解できてるね?」

「それは、うん」

「恋愛ってのはさ、自分だけのことじゃない。相手がいる。それに僕たちのお仕事のことを考えたらタダじゃ済まないなんてことわかるでしょ。そこんとこちゃんと理解しなよ」

「れいちゃん」

 不思議だなあ、と音也は思った。

 こんなの先輩だったならやめておけ、と止めるものだと、そう考えたからだ。

 抱き寄せられると、嶺二からはいつもの大人っぽい香水のいい香りがする。それはどことなく、自分が同じ香水をつけたとしても同じように香るとも思えない、独特の匂いがした。

 そうした匂いを感じつつも、自分を優しく見つめる先輩の視線を同じように返してから尋ねる。

「やめた方がいいって、言わないの?」

「聞いたじゃない、おとやんはダメっていったら燃えるタイプでしょって」

 ふふん、と嶺二は笑った。

「そんなタイプのコにはね、ぼくちんはそんな言い方はしないんだ」

 会議室の扉を開けて、廊下に二人で出ていく。そして嶺二は少しだけ振り向いて手を振ってから、またねーと去っていった。

 やめろ、と言わないことが果たして正解だったかどうかは任せる、とまるで答えを待ってるといわんばかりの態度だったな、と音也はその後ろ姿を見て思う。

 小さくなっていく嶺二の背中を音也はいつまでも目で、追い続けた。 

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