その後、春歌は音也からもらった『君のうた』を何度も聴き返した。そして歌詞の意味を理解したとき、彼女は自然と涙を流していた。
春歌は曲を聴いているうちに涙を流すことはよくあることだったけれど、今回のように感情的に泣いたことは初めてのことだった。
その理由はおそらく、この曲に込められた想いを知ったからだ。
(どうしてこんなにも、胸が締めつけられるんだろう)
その答えを春歌はすでに知っていた。それは、春歌自身が音也に対して抱いている気持ちと同じものだったのだ。
音也への恋心を自覚してから、春歌の中で彼の存在がどんどん大きくなっていくことに戸惑いを感じていた。けれど、その不安や葛藤さえも愛しく思えた。
そして同時にこうも思った。この気持ちを大事にしていきたい、と。
「……頑張らないと」
春歌は一人呟く。
自分が作った曲を聴いたとき、音也はどんな反応をするだろうか。それを想像するだけで、わくわくするような緊張のような不思議な気分になった。
「よし!」
気合を入れて、春歌は立ち上がる。そして机の上に広げていたノートを閉じると、鞄の中に入れ、楽譜ファイルを取り出す。
それは、音也とのデュエット曲の譜面。そこには、たくさんの書き込みがあった。
「さっそく練習しないと」
春歌はピアノの前に座ると、ゆっくりと深呼吸をして鍵盤に手を置いた。
―――そして数日後。
「どうぞ、入ってください」
「うわー! すごい部屋!なんか、ごちゃってしてるね!」
「す、すみません。もっと綺麗にしておくつもりだったのですが……」
「全然平気! むしろ、春歌って感じがして俺は好きかも!」
「えっと、それってどういう意味でしょうか……?」
「さあ?自分で考えてみて」
「えぇ……」
音也は冗談だよと言って笑いながら、部屋の中へと足を踏み入れた。春歌は恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな表情を浮かべている。
二人がなぜ一緒にいるのかと言うと、今日は音也が春歌の部屋へ遊びにきたからである。
きっかけは数日前に遡る。
春歌は音也との練習のために、彼の家へと向かった。すると、そこで待っていたのは――
「春歌だぁ~!!」
「きゃあっ!? お、音也くん?」
「もう、俺春歌に会えないかと思ったよぉ~」
玄関を開けるなり抱きついてきた音也の姿だった。
突然のことでびっくりしていた春歌だったが、すぐに冷静になり状況を把握する。
「えっと……、もしかしてずっと待っていてくれたんですか?」
「うん。でも、心配しないで!ちゃんと翔に言われた通り、一時間前には帰ってきたから」
「え? じゃあ、わたしが来るまでどこにいたんですか?」
「春歌のこと考えてたらいつの間にか寝てたみたい」
「…………音也くん」
「なに?」
「そういうのは、よくないと思います」
「なんで?」
「だって、身体を壊してしまったら大変じゃないですか」
「大丈夫だって。俺、丈夫だし」
「でも、もし風邪でも引いたら……」
「春歌が看病してくれるんでしょ?」
「そ、それはもちろんですけど」
「だったらいいでしょ?」
「……はい」
音也の勢いに押される形で、春歌は渋々納得した。
それから二人は練習を開始したのだが、その日を境に音也は毎日のように春歌の家で待つようになった。しかも、ただ待っているだけでなく、掃除をしたり洗濯したりと家事を手伝ってくれることもあった。おかげで春歌の生活はだいぶ楽になった。
(でも、やっぱり申し訳ないような気がします)
そう思いながらも、やはり一人で寂しい思いをするよりは誰かと一緒にいた方が楽しいし心強い。それに何よりも、音也が傍にいるだけで幸せな気持ちになれるのだから、何も言うことはない。
そんなわけで、二人は今に至るというわけである。

たかさか
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