ときめき

  • pixivでシリーズとして公開していた「ときめき」の再録です。

    改行がうまくいかなくて読みづらくてすみません……

    時空としてはマジLOVEシリーズ軸のマジレボ嶺二回で音也くんが春歌ちゃんが遅くに帰ってきたのをみて(むむう!?)みたいな表情で見ていたのが印象的だったので、そのときの感情のまま突き進み、知らずしらずにときめきがはみ出ている一十木音也くんが怒涛にお誘いして……な音春のお話です。
    (どんな時空)

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#9 真夜中の太陽

 目の前で踊る彼は輝いていて、こんなに間近で見れてしまうことに春歌はたまらなくドキドキした。
 太陽は出ていない真夜中だったのに、なぜあんなに眩しく見えたのだろう。
 まるで彼自身が太陽みたいに輝いていたから、そうした眩しさをくれたのかもしれないな、なんて一緒に踊っている時には考える余裕もなかったことが今になってどんどん浮かんでくる。
 最後にふたり、隣同士でベンチに座ってもう一度と手を繋ぐ。話題が尽きると無言のままで時は過ぎていく。
 名残惜しそうに手を離そうとしない彼に「そろそろ……」と声をかけると、今まで見たことがないくらい寂しそうな表情をしている音也と春歌は目があった。
 お互いに見つめ合ったまま、ドキドキしながら、何も言えなくなるまま時間がまたも過ぎていく。
 ああ、離れがたいというのはこういう感情なのかもしれない、としみじみと感じていると、ぱっと音也は手を離した。
「そろそろ戻んなきゃ、だよね?」
 いくら目を盗んでこの場所に集まっているといっても、同じ場所に長時間も居座っていたらバレてしまうかもしれない。
 そうした心配も含んだ視線に気づいて、春歌が頷くと、じゃあ、と音也はベンチから立ち上がって、身体を離していく。
 
 あんなに名残惜しそうにしていたのに、切り替え早いですっと、今度は自分が名残惜しくなってしまって音也の姿を春歌は目で追い続けた。
 その視線に気づいたかのように、「またね、七海」と音也は手を振る。
 
 どうして、今この瞬間にあと何回この挨拶を繰り返すことができるのかなと終わりの予感を感じたのだろう。
 
 振られた手に応じるように同じく手をあげて「またね、一十木くん」と挨拶する。
 その返事を聞けて満足したように音也は背を向けた。
 初めて彼の後ろ姿が見えなくなるまで、春歌はその目で追い続けた。

 

 いつもは見送るよ、と音也から帰ることはなかったのに、今日は先に音也が帰っていくのを見て何か用事があったのかもしれないな、とそんなことを考えながら春歌も部屋に戻るために寮の廊下を歩いた。

 今日の出来事を一つ一つ、思い出していく。

 急に踊ろうと言われたのは焦ったけれど、一番は不格好な姿での踊りになってしまう自分があまりにも不甲斐なくて情けなかった。

 また踊ろうな、なんて言われてしまった……とそのことを考えると、次に誘われた時にもあんな状態を見せてしまったら呆れられてしまうかなあ、と普段の運動不足のこともよぎった。

 最近はずっと曲を作るインスピレーションには恵まれていたけれど、自分の曲を歌ってくれる当人自身とこんなふうにやりとりすることはなくなってしまっていたなあ、と春歌は今までのことも遡りつつも考える。

「あ」

 曲、といえば今日ずっと音也が鼻歌で口ぐさんでいたリズムとってもよかったな、と急にうずうずした。

 確かこんなでした……と廊下で今日教えてもらったステップを一人で踏みながらどんなメロディだったかなあと思い出そうとする。

 こんなかな、こんなだったかな、う~ん、これ以上思い出すには難しい……気になっていた主旋律は書けそうだから部屋に戻ったら早速書いて……あとはもう一度踊ってみれば思い出せそうな気がする、と明日の朝にでも身体を動かすのを兼ねてトレーニングルームにいこうと春歌は決めた。

 

 次に二人で会って話す約束ができたのは一週間後だった。

 お互いに夜遅くまでの打ち合わせが入ることや、収録が長引いてしまったというのもあって、直接会うまでには時間が空いてしまったけれどようやく予定があったというのもあって、春歌はなぜか少し、ドキドキしていた。

「一十木くん」

「七海っ」

 ぶんぶんと手を振りながら元気よく音也が駆けてくる。

 今日の待ち合わせには春歌の方が先にいつもの庭園に到着していたから、駆けてくる音也を出迎える形で春歌が座っていたベンチから立ち上がった。

「聞いて欲しいことがあるんだけど」

「聞いてください」

 合流した瞬間に二人して言いたいことがあると言わんばかりにお互いの主張がぶつかりあった。

「……あっ、七海からどうぞ」

「いえ、一十木くんからぜひ」

「えぇ? 七海の方が聞いて欲しそうだったから七海からどうぞ」

 どうぞどうぞ、と音也から促されて、このままお互い譲り合っていてもしかたがないかもと悟った春歌は「あのですね」と聞いて欲しいことを話し出す。

「ようやく、曲が通りました」

「おおお? やったじゃん!」

 曲を書き続けては全ボツにされる、という今までにない体験をしていた春歌の苦労がようやく報われる日がきたと音也は自分のことのように喜んだ。

「一十木くんに話しているうちに自分が悩んでたことや、こうしたいってことがどんどん頭の中で整理できて……それで一番は話さなくちゃわからないと思って話したんです」

 春歌の自尊心を砕き続けていた例のプロデューサーというのは全ボツか全採用かの二極化していて、ボツにするにしても採用するにしても、その理由を話すことがほとんどなかった。

 どんな曲がほしいか、というヒントも出さないし、かといって一から綿密に打ち合わせて作っていこうとしても、作品の世界に合わないといきなりボツにしたりと思惑が見えてこない人物だというのは一部の人々では有名な話だったようだ。

 コミュニケーションのチャンスとなるような食事会や飲み会にも頻繁に顔を出すタイプではなく、どこで意思疎通を測ればいいのか春歌が悩んでいたことを音也は話を聞いて大体把握していた。

「結局どうしたの? 担当が変わった?」

「ううん、同じ方のままです。プロデューサーには、お会いするような予定がなくても現場にいらっしゃる時には顔を見せてひたすら挨拶しにいってたんです」

「挨拶か~、挨拶は大事だよね~」

 意外と効果的なのは「挨拶」ということは基本のキとして音也も嶺二から教え込まれた覚えがある。

 何も「おはようございます」とか「こんにちは」の言葉だけの挨拶だけでなく、顔を見せて会話をするというのが何より大切だとシャイニング事務所に所属になったばかりのときに口酸っぱく言っていた。

「はい。最初はうっとうしがられてて、大変でした。でも続けていくうちに挨拶だけじゃなくて世間話もされることが増えて。結局、話したことは別に仕事とは関係なかったんですけど」

「関係なかったんだ」

 この業界ではよくあるよねー、と春歌の苦労を聞いて音也も思い当たる節がたくさんある。

 挨拶にくるのが遅れた、とか、勝手な偏見や誤解でなぜかいつの間にか嫌われていて仕事回ってこなくなったりすることもあるから、普段からの挨拶はしっかりとするべきだし、何気ない話題だって大切だ。

 気に入られるための媚を売っているみたいに言われるけれど、結局は日頃の地道な関係構築によってこの業界は成り立っているのかもしれない。

 チャンスを掴むにはそうした地道な努力は必要だし、実力があったとしても日の当たる場所へと出てこなければ、いつまでも日陰にいるだけになってしまう。

「実は話すうちにわたしの方が、なんでこの一連の曲は全ボツで、ここまでの曲は全採用してくれたのだろうってあらためて考えることが増えて……。相手の機嫌がよかったから偶然だとか、理由なんてないって一時期卑屈に物事考えてたんですよね……」

 挨拶、という行動に移していくうちに、様々な気づきがありました、と総括するように春歌は話に耳を傾けてくれる音也に向かって一生懸命に話し続ける。

「プロデューサーはいつ挨拶しても同じ温度感で、機嫌が良い時とか悪い時があるわけではない人だったんですが、わたしの方が結構ムラがあったみたいで……」

「七海の方が?」

 へぇ、と音也が言われてみれば確かにな、と思うところがあった。

 本人自身があまり自覚してなかったのか、と思ったけれど、自分のことを客観視してみるということは想像以上に難しい。

 誰かと話して触れ合って、自分でそのことに気づくことで自覚したり、誰かに教えてもらったりすることで自分自身のことを知るということもあるだろう。

「一十木くんとダンスをした日がありましたよね」

「うん、あったあった」

 あれはすごく楽しかった~またやりたい~と足をぶらぶらさせつつ、好きに喋る音也に「そうだね」と笑顔で同意してから、それでね、と春歌は話を続ける。

「その次の日にいつも通り会いにいって挨拶したら、珍しく相手の方から機嫌いいみたいだねって言われて……楽しくて曲もできちゃったりして、言われてみればとても……その日はわかりやすく自分はご機嫌だったなあと」

 えへへ、とちょっぴり恥ずかしそうにその日のことを報告している春歌が可愛く見えて、そうなんだー、と音也も頷いた。

「なので、もしかすると提出した曲にも気づいてなかった気分のムラが出ていたのかもしれないなと思って……締め切りがあったとして、余裕がない時には仕事を受けすぎないとか、途中からコンディションが違うって気づいたら早めに相談するとか。そうしたことに気をつけて、一週間曲作りしてたら、久々に曲が通りました!」

 おそらくこうしたことに気をつけれたからうまくいった、ということを振り返ることができる春歌に、さすがだなぁ、と音也は何度も頷いた。

「なるほどね、なんか参考になる話ばかりだなぁ。俺も今聞いた話を活かせるようにしよっと」

 今の話を参考にしたい、という音也に向けて、もしかしたら他人から見れば当たり前にできることなのかもしれないですけど、と春歌は苦笑いした。

「人にとっての当たり前なんてそれぞれだからさ。例えば七海が軽々と超えちゃうようなハードルでも他の人にとってなかなか飛べない高さだってこともあるし。七海にとってその逆もあるわけだろ」

「そうですね。人にとってそれぞれ違いますもんね……」

「ん。あぁそうか」

 気づいたことがある、と音也が得意そうに笑ったのを見て「なんでしょう」と春歌も笑顔で首を傾げて尋ねた。

「曲が通ったから今日の七海はすごくご機嫌なのか! よく笑うもんね~」

 なるほど、だからご機嫌だったんだねぇとその理由に気づいたと腕を組みながら、うんうんと音也が頷く。

「あ、曲が通ったのもそうですけど、今日は、一十木くんと会える日だから」

「あっ? そういうのもあるのか」

 あからさまに動揺して変な受け答えになったと音也は悔やんだ。

 まさかこんなところで、そんな嬉しいことをさらっと言われるなんて思いもしなかったからだ。

「一十木くんとお話するようになったから、自分のことに対する気づき、みたいなのが増えたんですよね」

 今ではプロデューサーの方から、挨拶しにきてくれたり、連絡がくることも増えたんですよと春歌は自分が起こした行動からの変化に驚いているようだった。

 挨拶をして、会話が生まれて、現場にいる人たちとも巻き込んで会話して、そうすると新しい作曲の依頼とか直接頼まれることもあったりして、楽しいことばかりですと春歌は笑った。

「ん? そのプロデューサーからの連絡がくるの?」

 単純に気になってしまったことをそのまま質問するのは悪いクセだと音也は気づいていても、してしまった。

「はい。以前は仕事の連絡だけだったのが、このところは世間話されたりします」

 年上だし、立場上は職場の先輩、上司のようなものだから、仕事絡みの会話が多いけれど……と連絡内容について春歌は思い出すようにしながらも教えてくれた。

 春歌からの返事にふーん、と軽く聞き流しながらも、俺のせいで七海が積極的になったような気もして、なんかそうなってくると色々怖いな、とかそんなことを音也は考え込んでしまった。

「あ、わたしの話ばかりをしてしまいました……一十木くんの話は?」

「あぁ俺? 俺の話はねっ、ソロライブが決まったんだよ、ソロライブ~!」

「え」

「あ、まだ未発表だから内緒ね、日程も決まって、会場はもう抑えてるけど俺も今日おっさんから聞いたばっかだから」

 しーっと口に指を当てながらも、でも七海には話しちゃうね、といたずらっぽい表情を浮かべたまま音也は笑う。

「そうなんだ! 本当に決まりたてなんだね」

「そう! でね~、七海に書いてもらった今までのソロ曲ぜ~んぶ歌おうと思ってるんだ。セットリストの順番とかは考え中だけど……」

 演出とか曲の長さとか、そういうのも考えなくちゃだからそれは七海にたくさん相談したいし、本番で使うギターをどれにしようか今もう悩んでるんだよね、あの曲の時はアコギだろ、エレキ使うにしたってライブ用に下ろした新モデルのやつだって使いたいし、あの曲の時には普段から慣れてるやつの方が絶対いいし……と早口で考えていることを一気に喋る音也を見て春歌は(ものすごく楽しみにしてるのが伝わってくる……)とその熱量を必死に受け止めようと話に耳を傾けた。

 それにピックも今回新しくデザインしてグッズにして売ったりとかできないかな、とか、とにかく色々考えてるの、あと衣装だって一着だけじゃいやだし、何着くらい準備できるだろうと止まらぬ音也の話に、うんうんとひたすら春歌は頷いた。

 それでさ~、と勢いで身を乗り出したあたりで春歌と肩がぶつかってしまったのに気づいた音也が「ごめん」と声をかけてから、ハッ! としたように急に気づいたというような表情に変わった。

「あれ? あのさ、俺もしかしてめちゃくちゃ喋ってた?」

「うん、めちゃくちゃ喋ってたよ」

「あの……止めてくれていいから……」

 やばい、なんかもうむちゃくちゃ恥ずかしい、俺は一体何をどこまで喋ったんだ? と記憶がない、と音也が口を押さえる。

「すごく楽しそうにライブの話をしてくれてるのに、止めるなんてできません」

 このままず~っと話しててくれていいよ、と優しい眼差しですべてを受け止めようとする春歌に向けて「いや俺、この勢いだと明日の朝まで喋るよ」と音也が言うと、春歌はすぐに「朝まで付き合うよ」と返事をして笑った。

「……このまま朝まで? そんなことを言うもんじゃないよ」

 急に不機嫌になった音也に叱られて、春歌は驚いた。

 これだけ楽しそうに話す音也の話を朝まで聞いていられると思ったのは本当だ。学生時代に友千香と朝まで尽きぬ話をし続けたことだってある。

 話している時はとても機嫌がよさそうだったし、朝まで付き合うといったら、だったら聞いてよ~と、朝まで本当に話してくれると思っていたのに音也はあからさまに不機嫌になっていた。

「七海は女の子なんだから、朝まで男と一緒にいたらさすがにだめだろ……」

 なんてことを気軽にいうんだ、期待するじゃんと音也は腕を組みながらため息をつく。

「え?」

「え? もしかして七海、俺のこと男として全然意識してなかった?」

 もしかして、気づいてはいけないことに気づいてしまった? 余計なことを言った? と音也は表情を強張らせた。

「だって一十木くんは友達……」

 春歌がいつものように口にした「友達」という言葉が音也にとってやたら重苦しく感じた。

「七海にとっての友達はさ。二人きりで朝まで過ごせる男のことなの?」

「えぇ? い、一十木くんは一十木くんです」

「うう~ん。俺は俺だけどさ……」

 そんな信頼してます、みたいな純粋な瞳で俺のことを見ないで欲しいんだよね、と音也は呻いた。

 一緒に踊った時に嗅いだ春歌のあの甘い香りに、いつ惑わされてしまうか正直自信がない。

 朝まで一緒にいたいと望まれたとして、何もないままなんて俺にできるのか? という自信のなさにあふれている。

「朝まで一緒にいるなら、ここじゃなくて俺の部屋に七海のことを連れてくよ」

「どうして?」

「さすがに朝になるまでここで話してたら目立つもんさ」

「そ、そうですね……」

「今、俺たちの部屋に住んでるの俺一人しかいないし」

 マスターコース寮には当初は嶺二とトキヤと音也の三人で暮らしていたけれど、嶺二が元からの住まいであるマンションに戻り、トキヤはこの数ヶ月は海外でのロケや舞台巡業が続いていて実質音也のひとり暮らし状態だった。

 女子寮には男子は入っちゃだめというわかりやすいルールが敷かれている一方、なぜか男子寮の警備はあまりにもザルすぎて入り放題なところがあるのを見抜いてからは、だったら自分の部屋に七海を誘えばいいじゃん、と大胆なことを音也は考えたこともある。

 考えたこともあるけれど、こんなことを相手が気軽にOKするわけがないと信じているし、誘ったってどうしようもないけど、と期待もせずに春歌の返事を待つ。

「わたしは別に、一十木くんのお部屋で、朝まで一緒にいても……」

 信じた瞬間、裏切ってきた。

 途切れ途切れにあるまじきことを言う春歌に、音也は頭がおかしくなりそうになった。

 今だって時間を合わせて夜に会って話すのだって友達以上じゃんと思うのに、さらに今度は二人だけで朝まで過ごして、それを友達だなんてどうやって言い訳するんだよ。

 音也にとってはもう、今の関係をただの友達だなんて思えないというのに、そばにいるこの人はきっと「友達」だとこの関係を言い切るのだろう。

 もしかすると、音也がアイドルでいる限り、作曲家であるこの人は、この関係を「友達」だと言い張り続けるのかもしれない。

 だとしたら、これから先、友達じゃない関係になりたいと伝えたとして、受け入れてくれるのかもわからなくて音也はただ怖かった。

 そして、今以上のことを望んでしまったら、大切にしてきたこの時間が失くなるかと思うとそれがなにより、怖かった。

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