ときめき

  • pixivでシリーズとして公開していた「ときめき」の再録です。

    改行がうまくいかなくて読みづらくてすみません……

    時空としてはマジLOVEシリーズ軸のマジレボ嶺二回で音也くんが春歌ちゃんが遅くに帰ってきたのをみて(むむう!?)みたいな表情で見ていたのが印象的だったので、そのときの感情のまま突き進み、知らずしらずにときめきがはみ出ている一十木音也くんが怒涛にお誘いして……な音春のお話です。
    (どんな時空)

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#14 言葉を燻らせる

「おっとやーん。君が湖に落としたのは左手のコーラ? それとも右手のドーナツ?」
「どちらも湖には落としてません!」
「なんて正直な後輩なんでしょう! そんなかわいい後輩には両方をア・ゲ・ル!」
 番組収録が終わって、帰る支度をするのに楽屋にいた音也の元へと差し入れを携えて嶺二がやってくるのは珍しいことではない。
 これ食べる? あれ飲む? とあげればあげるほど喜ぶ音也を見るのが嬉しくって、つい様々なものを片手に楽屋へ嶺二はやってくるのだ。
 音也自身もそうして嶺二がいろんなものをくれるのが嬉しくってたまらないのか、嶺二がくると何かがもらえる! と条件反射で反応するようになってきており、まるでパブロフの犬だなと蘭丸から評されたこともある。
「やー今回も盛り上がりましたな、教えて恋のプロフェッサー! それにしてもだよおとやん。自分の相談事を番組の投書箱に入れちゃダメだよ☆」
 グホォッ! と激しく音也の咳き込む様子を見て、口にしていたドーナツを詰まらせたんだなとわかった嶺二は、ほらほら手元のコーラを飲んで流し込みなさいと危機に陥る後輩に手助けをする。
「最近はメールで送ってもらうのが多いんだからせめてメールで送りなよ。いくら名前書いてないからって、はがきに直で書かれてたら見る人が見たらバレるよ」
「んんんっ……んんっ……っ」
「何か申し開きすることは他にある?」
 最初に登場したときは打って変わって怒ってるよモードの嶺二に、音也は胸を叩きながら喉につまったドーナツをコーラで必死に流し込んだ後「……だって……」という声だけが漏れる。
「今回ぼくが仕分けしたんだから感謝しなよー⁉ 数が少ないってんで、スタッフさんに仕分けてもらう前に目ぇ通したんだからさあ!」
 ただし、あのはがきを読んでないスタッフがいないわけじゃないからバレてる可能性はいくらでもあんだからね? と続けてから嶺二は自分が持ってきた残りのドーナツに手を伸ばしてもぐもぐと食べ始める。
 音也はすっかり意気消沈した様子で、はーい……と最初の元気はどこへやらすっかり落ち込んだ様子だ。
「誰にも相談できなくて困ってたんでしょ。わかるよ。あんな内容、誰にも話せないもんなあ……」
 もぐもぐとお互いにドーナツを食べ進めながら、楽屋が一気にしんみりとする。
 もう一つ食べる? と嶺二が音也にドーナツを勧めると、食べる、と落ち込んでいる様子だけれど、勧められたドーナツをハグハグと食べ続ける様子を見て食欲はあるのねと嶺二は笑った。
「で、相手は誰なの? 相手を呼んで一緒にお泊りにいったりしてるの? 外はやめときな~、いつ見つかるかわかんないよ~」
「外は行かないよ」
「外じゃない? おとやん、まだ事務所の寮だよね。あー、トッキー今海外だから一人なのか、なるほど」
 ふむ、と嶺二は手にしていた残り少なくなったドーナツを最後まで食べ進めてから、手についた粉糖をぺろりと舐めた。
「待って……? 寮って……ちょっとおとやん、あんたってコはまさか」
 自分で推理するようなことをしてから、相手が誰かわかってしまったとなんとなくでも気づいてはいたけれど、まさかそこまで進んでいたとは、と嶺二はおもわず目の前にある机をバンッと叩いて立ち上がった。
 音也は急に立ち上がった嶺二のことをまじまじと見上げながら何を言われるのかと待ち構えている様子だ。
「毎晩一緒にいるわけでしょ、そんで関係を進めたいってことは……まだ付き合ってない? え? おとやん、後輩ちゃんとそういうただれた関係……」
 何それ最悪……と嶺二がドン引きした様子で口にしたことを「ぜんぜん違う‼」と顔を真っ赤にしながら音也は全力で否定した。
「だっておとやん、一緒に寝てたら我慢できないって言ってたじゃん。やることはやる男でしょ」
「やることって‼ やることな~んもできてないから‼ ゼロだから‼」
 だから悩んでるんだろー‼ と先輩相手に逆切れ気味で声を荒げた音也に向かって、あー落ち着いてぼくちんの早とちりでしたー、と嶺二はどうどうと両手を掲げて音也を落ち着かせようとする。
「なるほど……? なんだ思ったよりもピュアな関係なのにすごい拗れてるね、そりゃあ悩むな……。おとやんはどうしたいわけさ」
「……そりゃもちろん、七海と付き合いたい……」
「付き合えば?」
「いいの?」
 意外な答えが返ってきたことに音也は素直に驚いた。
 それもそのはず、今まで嶺二から散々釘を刺されてきたからだ。事務所の先輩として、アイドルとしての先輩として、こうするべきだということを教えてくれていたけれど、何だかんだで嶺二は「どうしたいか」という気持ちを汲んで話を聞いてくれる。
「シャイニーさんが聞いたら、怒ると思うけどさ。ぼくとしては、何事もうまくやれってこと。バレるような下手くそな恋愛するくらいなら最初からするなって話」
 恋愛禁止っていうのはもちろん建前にあるとして、ファンが恋人っていうならそこはうまくやれなきゃアイドルとして意味ないよね、と嶺二は続けた。
「アイドルのお仕事だって今現在も頑張ってる最中なのに、恋愛までっておとやんがそんな器用にできるかなって思うとさ……」
 だからやめとけって何度も何度も言ったけど、それは無駄なんだろうってことはわかってたよと嶺二は遠い目をしながら肩をすくめた。
「ていうか、俺がアイドルってことにこだわってるのは、俺より七海の方だから……」
「あぁ、あのコ、アイドルファンだもんな……こだわりは強そう……ファンだから故にアイドルとの恋愛は夢みてなさそう……」
「えっ、じゃあ脈なしってこと?」
「いんや、おとやんがアイドルになる前からの仲なわけだし。純粋にアイドルとしてだけのおとやんのことを見てるわけじゃないと思うよ。アイドルとしてだけじゃない、おとやんっていう人そのものを後輩ちゃんはちゃんと見てるんじゃないかな……」
 ぼくとは違うよね〜、となぜか妙に自虐的に嶺二は笑った。
 最初からアイドルとして出会ったぼくとおとやんを比べれば、そういう違いはあるもんさ、とどこか寂し気にしているのを見つつも、言っていることは理に適ってると音也は先輩の言うこと一つ一つに頷きながらも打開策がないことに呻く。
「じゃあもう俺、どうしたらいいの……」
「ボクからしたら、今の関係続けてたらどんどん脈なしになると思うけど」
「なんでそんなこと言うの~……」
「だってこれから先も一緒に寝れるくらいに安心できる関係に落ち着いちゃったらときめき失っちゃうよ。おとやんがいざ事に及ばんとしても、相手は信頼してた相手から急に裏切られたって思っちゃうよ」
「……俺はいっつもドキドキして、ああ~ってなってるのに……」
「異性としての意識をどんどん奪われて、今更恋人として見れないって思われちゃうカモ!」
「そんな……どうしたらいいの、助けて恋のプロフェッサー……」
「ウム‼ そんなおとやんにワシからのアドバイスじゃ‼」
 頼られたことが嬉しかったのか、番組のノリを持ち出してきた音也に悪乗りした様子で嶺二は腕を組む。
 気分はすっかり恋のプロフェッサー状態で嶺二はアドバイスを始めた。
「ちゃんと異性として相手を意識してるってことを伝えるべきだね。君とキスしたいって、言葉で伝えるとかでもいいかもしれない。とにかく友達関係では終わらせたくないってことをごり押ししないと〜。付き合うってなったらもうこっちのもん‼ ただし無理矢理するのはなし‼」
「う~ん……キスしたいって迫ったら、それこそ嫌われないかなあ……」
「おとやんはキスしたくないわけ~?」
「キスしたいよ……」
「じゃあ素直にそのままその気持ち伝えなよ」
「なんでそんな簡単に言うのぉ……」
 君が好きだよ、キスがしたいよ、ってその一言が言えたなら、こんなに悩んでいないって、と音也はあれこれ気軽に言う嶺二を恨めしく思う。
 けれど、誰にも言えなくて、苦しくて、聞いてほしくて思わずこんな悩みを突っ込んでしまったのは自分自身だ。
 正直バレるかも、と思ったし、むしろ嶺二に気づいて欲しいと思ってはがきの中に混ぜ込ませた。
 どうせ読まれないと思っていたら、番組中に読まれてしまって驚いた。でも冗談みたいにされて、少し悲しかった。
 だからこうやって嶺二がちゃんと気づいて、相談に乗ってくれていることが嬉しいはずなのに、そんな簡単に言うなよ、ってますます悩むばかりの自分が悔しい。
「あはは、ままならないって表情してるねぇ。いいな、青春ってカンジ」
「もぉ、れいちゃん。俺のこと楽しんでるでしょ……れいちゃんはどうなのさ?」
「ボクは自分のことで手一杯かなあ。誰かのことを考える余裕がないってカンジ」
 誰かのことを考える余裕がないなんていいながら、ここまで後輩のことをかまっているのに、と音也が嶺二のことを見つめていると、ごまかすかのように、あーぜんぶドーナツ食べちゃった! と急に嶺二は声をあげて立ち上がった。
 目の前にいるこの先輩は、よほど大胆に濃厚な恋愛をしてきたのだろう。じゃないと普段から番組であざといばかりじゃなく、したたかな回答を続けられるはずはない。
 そんな後輩の視線に気づいてる、というように不服そうな音也の頭を嶺二は少し乱暴に撫でた。
「次から悩んだら直接ボクんとこおいで。変な投書はするなよ?」
「……はーい」
「あとさ、どうやって寮で一緒に寝てんのか知らんけど、シャイニーさんにバレたらやばいからね? ボクもそこは庇えないよ」
「うん。まーバレても、どうにかするよ」
「どうにかってぇ! まあ、シャイニーさん相手にあれだけ立ち回れるのはおとやんくらいなもんか。でもシャイニーさんはおとやんにだけは何だか知らないけどやたら厳しいよねえ」
「そうなの? 俺はそんなふうに感じたことないけどな」
 おっさん、すぐ怒るし厳しいけど、ライブも準備してくれたり俺はすごく好きだよ、と笑った音也に、嶺二はおとやんがそう感じているならそれでよいでしょうというように笑った。

 ここまでが、春歌と一緒に見ていた例の番組の収録時に起きていた出来事だ。
 今になって嶺二からのアドバイスを思い出して、音也は「キスがしたい」という意思表示をしたつもりだった。
 君とキスがしたいと思ってるとちゃんと言葉にして伝えて、異性として意識してることを知ってほしい。
 恋人とキスがしたい、って言われたらここはやっぱり「付き合おう」っていうタイミングなんじゃないかって思うのに、どうしてもその言葉が口から出ない。
 告白して、だめだったらどうしようって、彼女からの答えがわからなくて怖い。
 いつか出さなければいけない答えが怖くて、いつまでも逸れて迷子になった子供みたいに心がぐるぐるとしている。
 やがて何も言わなくなってしまって音也に向けて気まずそうに春歌が続けた。
「……今日は帰るね」
「え?」
 何も言えないまま黙っている時間が増えるたびに、気まずくなっていく気配から逃れるように、春歌がソファから立ち上がる。
「俺、無理矢理キスしたりはしないから……」
 音也の一言で春歌は帰る準備をはじめていた手を止めた。
「したくなっちゃうけど我慢するし、したくなったらキスしていい……? ってこれからも聞く、かもしれない」
「……」
「我慢するから……」
「一十木くん」
「我慢できなくなったら、ごめん……」
 あぁもう自信がないんだってば、と音也がため息をつくと、慌てた春歌が「わ、わたしこそごめんなさい」と謝る。
「色々と、悩んでて……ごめんなさい、我慢させてるのわたし、ですよね。ごめんなさい、こんなのよくないよね。もう、」
「いいんだ! 会えるなら俺はそれがいいから。こうやって七海と会えるなら、それがいい。我慢するし……」
 もう会うのはやめよう、って言われるのを察して、必死に音也はそれを遮った。
 春歌も言葉を遮られてこれ以上何も言えなくなる。
「帰らないで。今夜も俺と一緒に寝て。寂しくてどうにかなっちゃいそうだ」
 お互いの眼差しと言葉にはできない心の声ですべてを燻らせながら、曖昧な関係が曖昧なままに歪んでいくのがわかる。
 音也に手を引かれて、今にも泣きそうな表情でこんなことを口にされてしまえば、その手を振り切る勇気が春歌も出なかった。
 音也が自分のことを異性として見ているという意識が生まれて、今までの安心感が薄らいでいくのはわかるけれど、それ以上にこんな寂しい表情で自分のことを求める彼のそばにいてあげたいという気持ちの方が勝ってしまった。

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