ときめき

  • pixivでシリーズとして公開していた「ときめき」の再録です。

    改行がうまくいかなくて読みづらくてすみません……

    時空としてはマジLOVEシリーズ軸のマジレボ嶺二回で音也くんが春歌ちゃんが遅くに帰ってきたのをみて(むむう!?)みたいな表情で見ていたのが印象的だったので、そのときの感情のまま突き進み、知らずしらずにときめきがはみ出ている一十木音也くんが怒涛にお誘いして……な音春のお話です。
    (どんな時空)

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#5 お守り

 不意に目があってなんとなくお互いに笑ってごまかしあった後、七海にハンカチ返せてよかったよ、とほっとしたような表情で音也はもう一度、それを春歌に伝えた。

 色々気遣ってもらってしまったなと、春歌はこのハンカチが自分にとってどういうものだったか音也に伝わるなといいな、とぽつりぽつりと語りだす。

「わたし、小さい頃から緊張してばかり、だったんだけど……このハンカチを握りしめてるとどこか、ほっとして。だから、ずっと持ってたんです」

 早乙女学園を受験する時も、早乙女学園の入学式の時にも、ポケットにこのハンカチをいれていたな、とそのことを思い出しながら話した。

 あの雪の日に、初めて音也と出会った時のことも、Aクラスになってからもう一度会えたことも。

 まだまだ慣れない新しい環境に緊張してしまったら、無意識にでもポケットに手をいれて、このハンカチを握りしめていた。

「じゃあ、七海にとってのお守りみたいだったんだね」

「お守り……そうかもしれません」

 言われてみて初めて、あのハンカチが自分にとってそんな存在だったかも、とそれに気づいたというように春歌は、なるほど、と納得したような表情を見せた。

 そうなってくると、音也はますます申し訳ない気持ちが募ってくる。

「そんなお守りを、ボロボロにしちゃって本当にごめん……」

「あぁっ。いえいえ、そんな……でも、最近はそこまで緊張することもなくなってたなって」

「そうなの?」

「うん。早乙女学園に入ったばかりの時とか、まだ作曲をはじめたばかりの時とか、不安なときにはやっぱり癖みたいに触ってた気がするけど、いつからなのかな……あまりそこまで意識して触ることはなかったかな」

 そういえば、ハンカチ自体を貸してしまって、手元から離れても気にしてはいなかったことも含めてだけれど、最初の頃のように触るようなことも少なくなっていた気がする、と春歌は話すうちにそんなことを思い出していた。

 いつから握りしめなくても平気になっていたのだろう、と春歌は記憶と一緒に今までを遡りながら、大体この頃には……と、その時期について言及した。

「一十木くんとレコーディングテストでペア組んだ時、最初は緊張してたけど……その頃にはもう平気だったかも」

「あぁ。あの頃かぁ。七海と一緒に初めての曲作り、楽しかったね~」

 にこにことした表情の音也に、春歌も本当に楽しかったなぁとしみじみと初めて二人で曲作りをした時のことと一緒に当時の心境を振り返った。

「あの頃は、ほら、色々とあって……緊張することもあったんですけど。目の前にいる一十木くんとたくさん話してたら、なんか、大丈夫だなって、そんなふうに思ってました」

 大丈夫かあ、それって七海にとって俺はどういう相手だったのだろう? と音也はそれを考える。

「俺が七海にとってハンカチみたいになってたってことなのかなー」

 悩むように手にしていた飲み物のストローを弄りながら独り言のつもりで出た言葉に「一十木くんがハンカチ?」と春歌がどういうこと? というように反応したのを見て音也は「ハンカチはハンカチだよ~」と続けた。

「そうだなぁ、もし七海がこれから困ることがあった時には、俺のことをハンカチだと思って、ぎゅうってしてくれていいよ」

 ん? 俺がハンカチになっちゃうなら、抱きしめ合うでいいのかな? と疑問に思ってそんなことをそのまま音也は春歌に尋ねる。

「抱きしめ合うのは……」

 抱きしめあったら緊張しちゃうよ、と春歌は困ったように笑う。

「でもほら、ライブ前とかにも、ぎゅーってしたことあるじゃん、ぎゅーって」

 何かを抱きしめると安心するんだよねぇ、と目の前にいる春歌のことを眺めながら、彼女を抱きしめたときの柔らかさと同時に感じた安心感を音也は思い出そうとする。

 思い出そうとする中で、今までのは俺が勝手に七海のことを抱きしめていただけなのか……、とよく考えてみれば七海の方からぎゅーってされたことはないのかもしれない、と余計なことに音也は気づいてしまった。

 いつでも我慢できずに七海のことをぎゅーっと抱きしめていたなあ。

 そうなると、あれは抱きしめ合うっていうよりも、抱きしめるってことだもんな~。それってやっぱりなんか一方的で違うよね、柔らかくて気持ちよかったけど。

 いつか七海の方からぎゅ~って抱きしめてもらえたらな、なんて、忘れがたい感触のことを思い出そうとしながら、もう一度あの感触が欲しいなんてことを音也は願った。

 そんな気づきや願いに、君は気づいているだろうか、と音也は彼女のことを盗み見るけれど、気づくも様子もなく、そんなこともありましたね、という表情だけをしていた。

 まあ、こんなことは俺だけが気づいて知ってればいいや、と、そうだなあ、と音也は言葉を探す。

「俺はやっぱり、七海が大切にしてたハンカチみたいに、七海にとってほっとする相手でいたいな……」

 うん、とようやく今の気持ちに近い言葉が見つかった、というように音也は自分で言って自分を納得させるように、頷いている。

 何となく考え事をしながら呟いたことを真剣に聞き入りながら自分のことを見つめる春歌に気づいたのか、音也は「そんなに見られると照れるよ~」とついごまかした。

 思わず吸い寄せられるように彼のことを見ていた事に照れる、という音也の態度でようやく気づいたのか、あぶないあぶない、と一旦落ち着こうと春歌はため息をついた。

「……一十木くんは変わらないね……」

 その春歌の様子ともらった言葉にどことなく納得いかないのか、音也はあれれ、と首を傾げた。

「え~? 俺、変わらないかな」

 おかしいな、とわざとらしく音也が考え込むのを見て、一十木くんはやっぱりずるい、と春歌は思う。

「一十木くんは、変わらないよ」

「え~本当に⁉」

 七海にとって俺は変わらないままの男なの? と欲しいのはその言葉じゃないとわかりやすく不満げにする音也に春歌は続けた。

「一十木くんは、変わりません」

「そんなに何回も言われると、ちょっとへこむ……」

 だってもう出会ってから何年だ?

 七海が想像する以上に成長して、そうした姿を歌でもダンスでも、見せれてたと思ってたのになあ、と「変わらない」と言い切られてしまうと、なんだかそれはそれで悔しいな、と音也は感じた。

「一十木くんは昔からずっと、わたしにとって、ほっとする相手です」

 それはずっと変わらないよ、と懐かしい眼差しを向ける彼女の視線を感じてる。

 ああ、そうか。

 彼女にとっての「変わらない」というのはそういうことだったんだと、わかったような、でも、わかりたくないような複雑な感情が芽生えてくる。

 懐かしさと同時に入り混じった優しい視線を感じたまま「そうありたい」と願ったことが叶っているかもしれないのに、心のどこかでそうしたものを裏切りたくなるような、下心といってもいい感情が自分にあることを、とっくのとうに音也は気づいていた。

 

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